沖縄総合事務局 建設部局だけではない「ならでは」の施策を実施
沖縄総合事務局は、国土交通行政だけでなくその他の省庁の分野も幅広く包摂する内閣府の機関である。「ダム、道路、港湾、空港などの整備、農林水産業の基盤整備等の公共事業やその他沖縄の振興に直接関係のある各省庁の地方支分部局の仕事を広く含んでおり」(同局HPより抜粋)、仕事は多岐にわたる。山田哲也局次長に、国土交通行政を中心に、省庁横断的な事業も含めて詳細を聞いた。同局次長には、以前に東北や奈良でも取材しており、東北や近畿勤務時の内容を通して、その人となりも伝えられる内容となった。(井手迫瑞樹)
京都大学で河川を学び国土交通省に入省も、ほとんど道路畑一筋
京都大学で河川を学び国土交通省に入省も、ほとんど道路畑一筋
多くの近畿の道路計画に携わってきた
――局次長の建設分野に興味を持たれたきっかけは
山田次長 大学は京都大学出身ですが、受験する時に土木を選びました。モノを造るというのが自分には合っていると感じて判断したわけですが、今もって60近くなっても正しい判断であったと思います。
土木工学科に入学した後、学んだ研究室は河川研究室(岩佐義朗教授)でした。その研究室は建設省に入る方が多く、その流れで建設省に入省しました。
――入省後のご経歴は
山田 土木研究所(現在国総研に相当)に入った後、京都国道事務所の調査課長に出て、そのまま近畿地方整備局の道路計画一課長になりました。大学時代は河川で学んだのに背番号は道路なわけで、その後、平成15年に本省に治水課長補佐で戻りましたが、17年に事務所長として出たのは奈良国道事務所、すなわち道路分野でした。そして19年に近畿地方整備局の道路調査官に就任しましたので、当時はずっと近畿の道路計画に携わってきたようなものです。その後、内閣府の消費者庁関係にいったん出向し、また道路局に戻ったのちに、東日本大震災で大きな被害が生じた東北地方整備局の道路部長として、震災復興に尽力させていただきました。そして奈良県の県土マネジメント部長となり、前職も阪神高速道路の取締役(計画担当)でした。大学は河川でしたが、道路畑を歩んできました。
大和北道路 整備しないことも選択肢に入れたPIを実施
文化財の専門家と、「ガチ」でオープンに議論
――心に残っている現場は
山田 京奈和自動車道の大和北道路整備事業です。同事業は、一部の区間が平城宮跡のすぐ近くを通ります。近畿地整の道路計画一課長の時に、平城宮跡は世界遺産であり、事業実施にUNESCOの承認を得なくてはならないことから、導入間もないパブリックインボルブメント(以降、PI)を行いました。PIに際しては、道路分野、文化財、経済界のそれぞれの専門家に参画してもらいました。当時としては初めて文化庁と協議し、ご推薦頂いた文化財の第一人者をお呼びして、地下水の専門家と道路事業により地中に埋まっている可能性のある木簡への影響は大丈夫なのか? などの課題をオープンに前提なく議論しました。その結果、何とか各先生に了解頂ける都市計画案の策定までこぎつけました。その後、奈良国道事務所長、道路調査官の時に、都市計画が決定して、平成30年に奈良県に戻ってきて新規事業化されました。大和北道路はかかわりが多かった分、思い入れも深い事業です。
思い入れの深い大和北道路の施工状況(国土交通省近畿地方整備局提供)
特に文化財の専門家と、「ガチ」でオープンな議論を行ったのは、当時はプレッシャーがありました。当時PIをする時に盛土構造か、高架構造か? という選択肢の他に、道路を整備しないという案も設けていました。
――それは思い切りましたね
山田 当時としては画期的な取組だったと思います(笑)。平成14年に奈良国道事務所がPIのためのたたき台を聞いた時に、整備しない案がアンケートに含まれており、多くの意見がそれに集まったらどうしようと、心配していました。そういう意味ではチャレンジングなことをさせていただいたと思っています。
――整備しない案に決まる可能性もあったわけですが……
山田 京奈和自動車道は奈良の発展にとって必要な道路ですから、有識者には経済界の方も入っておられましたし、大丈夫だと自分に言い聞かせました(笑)。国道24号の渋滞がとにかく酷かったので、整備するという方向性は問題がなかったと思っています。しかし、平城宮跡の近くを通りますので、木簡に影響を及ぼしてしまうという反対意見が非常に多く、そこを文化庁推薦の先生と議論して納得してもらえれば、整備しないという方向にはいかないと考えていました。
東日本大震災からの復興 道路部長として尽力
経験は能登半島の復興にも生かすことができる
――山田次長には、私も山田次長が東北地方整備局の道路部長時代に東日本大震災の復興道路の取材でお世話になりました
山田 櫛の歯作戦があって三陸沿岸道路の建設を急ピッチで進めました。復興道路事業ならではスピード感だったと思います。
――東北地方整備局は、道路面から東北を復興させるのだ! という士気の高さもありましたし、短期間に大量の復興事業をこなすことで、技術レベルも非常に進歩しましたね
山田 そう思います。PPPなど新たな事業手法も取り入れ、着工から最速6年で完成させた事業もあります。様々な「新記録」も作りましたし、優秀な技官もたくさん育ちました。本当に震災からの復興に邁進することで、東北地整は良い意味で個人も組織もものすごく鍛えられたと思います。
――これらの記憶や経験が能登半島地震での復興事業にも生かされていると思います
山田 そうですね。東日本大震災の対応は政府を挙げて取り組みました。震災時の経験はきっと生かすことができると思います。
沖総局 管理延長は6路線332km 2国道5出張所体制で管理
直轄多目的ダム9ダムの1事務所6管理支所体制で管理
――沖縄総合事務局の2024年度の道路・河川・港湾の管理状況は
山田 沖縄県全体の道路延長は約8,250kmとなっており、そのうち国道は約6%の506kmを占めています。国が管理する直轄国道は国道58号、329号、330号、331号、332号、506号の6路線約332km(ダブル管理延長48.3kmを含む)となっております。
管理体制としては北部国道の2出張所、南部国道の3出張所で管理しています。
沖縄県本島部の道路整備状況(内閣府沖縄総合事務局提供、以下注釈なきは同)
沖縄の道路特性としては、(西海岸は国道58号、東海岸は329号、330号、331号など)縦軸を国が建設・所管しており、真ん中に沖縄自動車道が入ります。
一方河川は、沖縄には1級河川が無く、2級河川を沖縄県が管理しており、河川の改築事業はありません。沖縄総合事務局では、局が建設した直轄多目的ダム9ダムを1事務所6管理支所体制で管理しています。
道路分野は開発建設部予算の6割が充当
その3分の1強が小禄道路の建設に注がれている
――沖縄という地域特性や整備局管内の置かれた状況、それらを踏まえた事業計画について予算規模、概要と主要事業を教えてください
山田 沖縄のインフラ整備は、本土よりも遅れている状況にあります。道路整備は正月に掲載された当局の関企画調整官が話した通り、約349億円と開発建設部の予算約600億円の約6割を充てられ、整備が進められています。とりわけ重点的に整備が進められているのは、小禄道路で約120億円が同事業に充てられています。現道上の狭小な施工ヤードで各種工事が輻輳する難工事を施工業者のご協力を頂きながら着々と進めており、現在、橋梁上下部工事、改良工事などの工事が、最盛期を迎えています。
また、県や市町村の街づくりと連携しながら進めている取り組みに沖縄市と名護市で整備を進めているバスターミナル事業があります。
新バスターミナル拠点位置図
新バスターミナルを名護市と沖縄市の街づくりの柱に
北部、中部観光の交通の柱になり、さらに渋滞解消にも寄与
――どのような事業ですか
山田 沖縄は鉄道に類する交通手段はモノレールしかありません。交通手段はマイカーと、レンタカーが多くなっています。そして多数の旅客を長距離輸送する手段としてはバスに頼っています。その利便性は道路整備だけでなく、より快適なバスターミナルを整備することで追求できます。本土でいう「交通結節点作り」です。
――新しいバスターミナルは沖縄市胡屋・中央地区と名護の漁港近くに計画されていますね
山田 沖縄市も名護市も新しい街づくりを計画されています。それに資するバスターミナルの計画・整備を進めることで交通の便を良くして人を集めて、賑わいの創出に貢献できればと考えています。
沖縄市胡屋・中央地区の新しい交通結節点づくりの検討状況(第1回 胡屋地区交通結節点整備検討委員会 公開資料より抜粋)
――名護はいつも北部国道事務所や沖縄県の北部土木事務所管内を取材する時の拠点として訪れていますが、現在のバスターミナルは狭いイメージがありますね
山田 狭いですし、市街地から少し離れています。外国人観光客にはわかりにくく、結節点として機能していませんし、名護市民は定時性が確保できないことから、もっぱらマイカーを選択されています。
名護総合交通ターミナルなどの配置検討位置の現況図(第2回名護市総合交通ターミナル検討部会公開資料より抜粋)
高速バスの定時性が確保でき、さらに今年テーマパークができる予定で、さらなる集客が期待される美ら海水族館など観光地へのわかりやすい移動ができる新しい結節点を早急に整備することで、交通体系を整理していきたいと考えています。定時性と分かりやすさを実現すれば、自然にバスターミナルを中心とした街づくりが進展し、賑わいの創出にも寄与できると思います。
また、高速バスによる定時性も確保した旅客輸送が安定的に実現できれば、国道58号などで慢性的に生じている交通渋滞もかなり緩和できるのではないかと考えています。
こうした街づくりと連携して事業を進めるという手法は沖縄総合事務局が置かれた現況としては、かくあるべき姿なのだと思います。
その典型的な「街づくり」と道路事業の連携事例としては豊見城道路があります。豊見城道路は豊見城市瀬長~糸満市西崎間を結ぶ延長約4kmの地域高規格道路で2016年3月30日に全線4車線で開通しました。するとオリオンビールの新本社(旧本社は浦添市、ただし工場は現在も名護市にある)が移転するなど様々な施設が新しく沿線に建ち並びました。道路整備による大きなストック効果を発揮した一例といえます。