沖縄総合事務局 建設部局だけではない「ならでは」の施策を実施
重要港湾の耐震化も2029年度には完成予定
南風原高架橋(RCアーチ部)で耐震補強を実施
――南風原高架橋の耐震対策はどのような内容ですか
山田 耐震性能2(地震後、橋としての機能を速やかに回復できる)を確保することを目的としています。
――南風原高架橋の架設時は、景観性を非常に重要視していましたが、今次の補強でもそうした景観性重視の考え方は踏襲されているのでしょうか。補強コンセプトと補強内容を教えてください
山田 今回の耐震補強でも景観性を考慮し、アーチ部や縦リブについては景観を損なわないよう薄い部材(炭素繊維、鋼板巻立て)で補強しており、景観への影響が少ない橋脚部分についてはコンクリート巻立てと、補強方法を使い分けています。
耐震補強中の南風原高架橋
――現在は設計中ですか、実工事に入っていますか
山田 設計は既に完了しております。補強工事は平成28年度より施工しており、今年度も引き続き施工しております。
――啓開の優先ルートは
山田 補強を優先実施する南風原高架橋を含むルートが最優先で沖縄自動車道⇒那覇空港自動車道⇒国道331号⇒国道58号を通って県庁に到達するルートです。
耐震補強の進め方
ついで第2ルートとして想定しているのが、沖縄自動車道⇒那覇空港自動車道(南風原北ICまで)⇒国道329号⇒国道58号を通って県庁に到達するルートです。南風原高架橋は両ルート共に使用するため、可及的速やかに補強を施さなくてはなりません。
啓開の優先ルート上で耐震補強対象となっている橋梁
また、第2ルートでは国道329号の鏡原高架橋と漫湖高架橋(上り)(いずれも那覇市鏡原)が対象となります。
その他、今後補強を行っていく橋梁としては、国道58号新牧港橋(上り)(宜野湾市宇地泊)、国道330号西原高架橋(上り)(浦添市西原)、国道330号ゆがふ橋(上り)(浦添市大平)、我如古橋(上り)(宜野湾市我如古)などとなっています。
――ダムの耐震対策については
山田 直轄ダムにおいては、L2地震災害の備えとして、耐震性能照査を行い、全てのダム堤体の安全性を確認しています。
重要港湾の耐震化も2029年度には完成予定
――港湾の耐震対策は
山田 L2地震対応として、耐震強化岸壁を整備しています。那覇港(2箇所)、平良港、石垣港の4箇所で実施済みで、現在はさらに那覇港の1箇所で水深-10m、延長250mの耐震強化岸壁を2027年度の完成目指して整備中です。また中城港湾でも水深-11m、延長250mの耐震強化岸壁を2029年度の完成を目指して整備を進めています。
耐震強化岸壁を整備
建設後50年回した橋梁は16%程度 健全度Ⅲも僅か
20年後は同64%に急増、塩害やASRの影響もある
――基礎自治体の財政力の低下とインフラの老朽化が進んでいます。点検代行や修繕代行などについて現在進捗中のそうした構造物があれば教えてください。また、今後の傾向や基礎自治体のインフラマネジメントの保全支援についても、局として行っている効果的な施策や新しい取組みなどがあれば教えてください
山田 沖縄県内には約2,800の橋梁があり、そのうち1,588橋(55.9%)が市町村管理となっています。県内の橋梁は1972年の日本復帰後の急速な道路整備に伴って、橋梁数も急激に増加しています。ただし現時点で建設後50年が経過した橋梁の割合は16%であり、とりわけ直轄国道は健全度Ⅰが8割程度を占め、さらに健全度Ⅱが2割弱、健全度Ⅲは2橋しかなく、2023年度末までの2巡目点検では健全度Ⅲは見つかっておらず、既に予防保全段階に達しているとも言えます。
県や市町村管理でも傾向は同じで、直轄権限代行による点検や補修を行っている構造物はありません。
また、NEXCOが管理する沖縄自動車道の北部区間では、塩害による損傷が大きい箇所について床版取替などのリニューアル工事を計画的に行っています。
しかし、20年後には建設後50年が経過する橋梁の割合は64%に急増し、急速に高齢化が進展します。さらに県内全体では塩害に晒されている地域があります。ASRを起こす可能性がある骨材を使っている橋梁等の構造物もあることから、今後はより注視していく必要があります。
現在、市町村への支援としては、沖縄県道路メンテナンス会議の開催の他、橋梁研修Ⅰを年に1回、5日間開催すると共に、橋梁保全講習会を年4回、現場視察や調査・点検訓練を伴って開催しています。さらに橋梁講習会を年1回行い、橋梁維持管理の最新技術や方法を講義し、自治体の技術者の技術力の底上げを図っています。
DX 「サイバ―ポート」が全国932港湾に対象拡大
新川ダムや橋梁でドローンを用いた効率的な点検を実施
――国土交通省ではDXの推進。活用を大きなテーマとしていますが、新設や災害復旧はもちろん、維持管理業務においても、点検作業の効率化や立会の効率化、工事や点検などの安全性向上の面(無人化技術など)などで用いている取組みを教えてください
山田 まず、全国的に取り組んでいる例から申し上げますと、港湾を取り巻く様々な情報を電子化し、データを一体的に取扱うデータプラットフォーム「サイバーポート」の構築、機能改善を進めています(下資料)。港湾施設情報の電子化は2024年度末までに地方港湾を含む全932港湾に対象拡大することが予定されています。
これにより、災害が起きた際の迅速な復旧に寄与することが期待されています。
――ダム関連でのDX導入事例は
山田 新川(あらかわ)ダムの洪水吐きの点検においてUAVを用いたレーザー測量や地上レーザー測量を用いた点検を行い、作業時間を10日から2日に短縮すると共に、点検費用も約66%縮減できました(下資料)。
――道路分野でのDX事例は
山田 橋梁点検については、橋梁点検車やリフト車では近接目視が困難な箇所の点検をドローンに搭載したカメラで点検しており、13橋で実施しました。
また、舗装点検でも、昨年度から車両搭載カメラを活用し、変状を確認し点検作業を効率化する取り組みを進めており、今年度末までに管理延長の約40%にあたる約130kmで実施する予定です。
小禄道路でARを用いて安全性を確認するシステムを採用
――全国的に取り組んでいる技術を沖縄にも導入した例について話されましたが、沖縄総合事務局独自のDX推進・活用による効率化事例はありませんか
山田 小禄道路では、橋梁上部工の架設に際して、現道でのクリアランスや安全走行性の確保が図れているかAR(拡張現実)(NETISNo.T-220216-A、拡張現実技術を利用した3Dモデル現場可視化システム「Trimble SiteVision」)を活用することで安全性の確認を図っています(下資料)。
小禄道路は、建設中の高架に並行する道路もバスなどが通る過密路線で、工事の切り回しは大変な労力を伴います。この課題に対し、ARを用いることで、多忙な現場で非常に効率化が図られました。
立会の効率化などについても、通信環境が整わない施工現場を除いた、全ての施工現場で遠隔臨場を実施しています(下資料)。
担い手不足への対応 喜ばれているのは週休2日制の実施
土木工事電子書類スリム化ガイド(R6.3)の実施も好評
――建設業において担い手不足が深刻化しています。若い技術者が土木に対してどのように魅力を持つように仕向けていくか、お考えや取組んでいることがあれば教えて下さい
山田 着任してから建設業団体と意見交換しているのですが、「行きつくところは人手不足」とみな仰っています。「誰も入ってきてくれない」、その状況をどう打開するか? というのが共通認識となっています。
もちろん、週休2日制の実施や、生産性向上に対する取組みの強化などはありますが、その前提としていかに入職者を確保し、そして歩留まりを高くするかに尽きるようです。
少し前に小禄道路の現場では地元業者と話す機会がありましたが、若い技術者から喜ばれているのは週休2日制の実施でした。これは確実に若年労働者の定着に寄与しているので続けていきたいと考えています。
さらに、沖縄総合事務局では、工事の書類作成負担を軽減するため、土木工事電子書類スリム化ガイド(R6.3)を出しました。2024年4月以降に「稼働中」の全工事を対象に受発注者間で作成書類の役割分担の明確化、書類の電子化、現場確認の効率化などに取組む内容を示したガイドです(下資料)。書類作成が減ったとして非常に現場の評判が良く、これも推進していきます。
また、2024年6月に建設業法の改正で規定された、いわゆる「建設Gメン」の取組みも担い手確保につながるよう進めてまいります。
――ひどい内容の一つとして下請への指値発注があります
山田 そのような類いの話も一部あるように聞こえてきておりますが、請負代金や工期に関する取引内容についての実地調査を推進していきます。実際の権限行使がなくともGメンの存在により改善につながることを期待しています。
――二次下請以下は監視の目が行き届きにくくなることも予想されます。多重下請構造をできるだけなくすことも考えなくてはいけません
山田 今後の課題と捉えています。
ただ、2024年6月に建設業の担い手確保を背景として「第3次担い手3法の改正」が実施されました。これは労働者の処遇改善のため、適正な労務費の確保と2次下請け以下への行き渡りや原価割れ契約の禁止、また、資材高騰に伴う労務費のしわ寄せ防止のため、請負代金等変更方法を契約者の記載事項として明確化し、働き方改革と生産性向上のため工期ダンピング対策の強化や工期変更の協議の円滑化を盛り込んでいます。これにより2次下請け以下にも適切な契約や支払いがなされていくと考えています。
――ありがとうございました