高専発、インフラメンテナンス人材育成・KOSEN-REIM(高専レイム)の挑戦
第15回 橋梁診断技術者が備えるべきICTに関する基礎知識を学ぶ専門特修講座「建設ICT」

舞鶴工業高等専門学校
社会基盤メンテナンス教育センター
センター長
玉田 和也氏
はじめに
日本の社会インフラは高度経済成長期に整備されたものが多く、現在その多くが高齢化しています。橋梁、道路、トンネル、ダムなど、国民生活を支える重要な構造物の安全性を確保するには、維持管理の重要性が急速に高まっています。
しかし、ここで大きな課題があります。それは人材不足です。建設業界では熟練技術者の高齢化が進み、若手の担い手が不足しています。さらに、現場の業務は従来のアナログな手法に依存しており、効率化や精度向上が求められています。
この状況を打破する鍵となるのがICT(情報通信技術)の活用です。AI、IoT、クラウド、BIM/CIMなどのデジタル技術を駆使することで、施工管理や維持管理の効率化、データ活用による予防保全が可能になります。国土交通省も「インフラメンテナンス2.0」を掲げ、デジタル化を推進しています。
KOSEN-REIMでは橋梁メンテナンスに関するリカレント教育プログラムとして、図1に示すように、「橋梁メンテナンス技術者育成のためのステップアップ型教育プログラム」体系の構築に取り組んできました(連載第1回参照)。「橋梁診断」を受講するには4つの「専門特修講座」である「施工技術と施工管理(連載第7回参照)」「構造物の詳細調査」「橋梁長寿命化対策(連載第14回参照)」「建設ICT」を先に受講する必要があります。今後は、デジタル技術を駆使していくことが必要となるので、橋梁診断技術者が備えるべき建設ICTに関する基礎知識、および橋梁メンテナンス実務でICTを活用するために必要な知識の修得を目的とした「建設ICT」を今回は紹介します。
図1 ステップアップ型教育プログラムの概念
道路橋定期点検要領における「新技術」活用の制度化と展望
道路橋の維持管理の効率化と安全性確保は重要課題となっています。その点検方法を定める「道路橋定期点検要領」における新技術活用の制度化の経緯と、今後の展望について記述します。
道路橋定期点検要領は、橋梁の健全性を評価するための標準的な手法を定めたものであり、2014年(平成26年)6月に初めて制定されました。当初は「近接目視」を基本とする点検が義務付けられていましたが、作業員の安全確保やコスト面で課題が指摘されていました。
新技術導入の経緯
・2014年(平成26年)6月
「道路橋定期点検要領」制定。基本は近接目視による点検を義務化。
・2019年(平成31年)2月改訂
近接目視と同等の健全性判断が可能な技術の使用を認める。これにより、ドローンやロボット、画像解析などが点検業務に導入可能になった。
・2024年(令和6年)3月改訂
新技術活用を前提に、性能評価やデータ記録の標準化が強化された。
従来の近接目視は高所作業や交通規制を伴い、安全性・コスト面で制約がありました。新技術の導入により、作業効率の向上、リスク低減、客観的データの蓄積が可能となり、維持管理の高度化に寄与しているといえます。
令和6年改定では、単なる技術導入から一歩進み、データの標準化と性能評価が重視されています。これにより、全国で均質な点検品質を確保し、長期的な維持管理計画に活用することが期待されています。また、AIによる損傷予測やIoTセンサーによる常時モニタリングなど、さらなる技術革新が進むことで、予防保全型の維持管理への転換が加速すると思われます。
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