令和7年道路橋示方書改定解説インタビュー
道路橋示方書が改定された。今回の改定では、平成14年から始まった性能規定化がようやく概成し、耐震設計編が発展的に解消されるなど、大きな体系の変革が行われた。新しい形式の提案に対する適切性評価の枠組み充実、耐久技術開発を見据えた対応、能登半島地震を踏まえた対応など、今後の橋梁設計・維持管理に大きな影響を与える内容となっている。国総研の玉越隆史道路構造物機能復旧研究官に改定のポイントと狙いについて詳しく聞いた。(井手迫瑞樹)
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耐震設計編は「発展的解消」 23年かけて性能規定化の体系が概成
耐震設計編は「発展的解消」
23年かけて性能規定化の体系が概成
――今回の道路橋示方書改定のポイントと、その狙いについて教えてください。耐震設計編が無くなったことは大きなインパクトですが
玉越道路構造物機能復旧研究官 日本の道路行政、道路橋の技術基準がどう進化してきているのかということが、驚くほど実務者や大学の先生に浸透していません。どういう経緯で、どういう災害を受けたり、三大損傷があったり、いろんなことがある中で、一方で新しい技術も上手に使っていかなければいけない。その中で、今までどういうふうに基準が変わって、中身が進化してきたかということがうまく浸透してこなかったところがあるように思います。
その一つの原因は、道路橋示方書が性能規定化して、いろんな創意工夫を行った橋が作りやすくなったことです。でも一方でインフラですから、道路構造令の解釈基準として、性能について譲ることはないし、会計検査という制度があるように公共財への予算ですからいわゆる贅沢も許されません。
発注者と設計者は個別条件に適合させつつも、そのピンポイントを狙わなければいけないんです。それを実現するという観点からは、創意工夫も許容しながら確実に必要な性能のある橋を実現するための基準としての性能規定化が、今回ようやく概成したと捉えています。要求性能を規定で明確にして、最低限の性能がきちんと担保されなければならないという基準に求められる要件に照らして完成度を高めたというのが今回の改定です。

道路橋示方書改定の内容構成と改定経緯(国総研提供、以下同)
平成14年に初めて性能規定型の考え方をとりいれた基準になりましたが、当初は、従来規定されていた仕様や照査基準の目的や意図を性能と位置付けて条文化しつつも、当然それだけではインフラの技術基準として最低限を明確にできていませんから、それまで規定されていた仕様や照査基準もそのまま、要求を満足できる方法の一つという位置づけで残すということが行われました。
今でも、この規定方法は踏襲されていますが、その後、改定を重ねながら徐々に、要求を普遍的な形になるようにしてきました。そうすることで実現手段の一つとして規定されている仕様による以外に、要求性能に対して直接的にそれを満足することを証明して採用できる選択肢の幅を拡大できるようにしてきました。
その後、特に大きかったのは平成29年の改定で性能マトリクスの形で部分係数とともに耐荷性能の要求を規定したことです。これによりどういう状況に対してどういう状態であればよいのかという橋全体に対する基本的な要求内容が初めて明確かつ普遍的な形で示されました。

耐荷性能の詳細体系(性能マトリクスの変化)
さらに、橋全体としての性能を、上部構造、下部構造、上下部接続部の性能の組み合わせとして評価することを義務付けたことは、従来一般的でない新しい形式の橋梁を提案することに対して基準に照らして所要の性能が満足されることが確実に照査され提案しやすくなったという点では、自由度の拡大と運用の適正化の両立をはかる大きな改定だったと思います。今回の改定では、さらに機能系統という概念を導入するなど大きな改定が行われました。また、性能規定型基準として規定体系が充実して完成度が高まるなかで、今まではあまり見えてこなかった特定の設計分野にかかわる規定だけを集約することの不合理な面も出てきたことから今回の改定では耐震設計編の内容を規定体系に沿って再編され、結果的に耐震設計編という編はなくなることになりました。意味合いとしては性能規定化が完成に近づいたことで、結果的に発展的に解消されたという感じでしょうか。
このようにして、要求は厳密に規定しつつ達成手段にはできるだけ自由度があるようにするという普遍性の高い性能規定型の設計基準がようやく概成したというのが今回の改定です。2002年から数えると23年かかったことになります。
図書構成も体系的に整理
5編構成で橋全体をカバー
――今回の改定で図書構成はどうなるのでしょうか
玉越 道路橋示方書は5編構成になっています。Ⅰ共通編、Ⅱ鋼部材・鋼上部構造編、Ⅲコンクリート部材・コンクリート上部構造編、Ⅳ下部構造編、Ⅴ上下部接続部編の5つですね。技術基準としての道路橋示方書は全編で一つの基準ですから、他の法令などと同様にすべての条文が一体不可分で相互に関係性がある一式の規定体系になっています。そのため、基本的に全編の規定が同時に適用され、その全てを矛盾なく満足させることが求められます。

図書構成
日本道路協会から解説を付して図書として出版される際には、利用の便から分冊化するとともに編ごとに参考資料などを付録としてつけることが行われてきましたが、図書では枠書きされている条文の全編分が一つの技術基準となっています。なお、Ⅰ共通編には橋全体に関わる要求性能や設計状況に関する規定がまとめられており、平成29年の部分係数化の際に導入された橋の基本構成要素である上部構造、下部構造、上下部接続部に対応して、Ⅱ・Ⅲ編が上部構造、Ⅳ編が下部構造、Ⅴ編が上下部接続部という構成です。
地震だけでなくあらゆる事象に対応
洪水も台風も噴火も普遍化
――耐震設計編がなくなることについて、専門家の間では驚きの声もあると聞いています
玉越 先ほど申し上げたとおり、性能規定型の設計基準としての完成度を上げられるように全編の規定が見直され、各規定の位置づけや相互関係に沿って条文の係り受けの構造なども見直されました。その結果として耐震設計だけをまとめた編とはならなかったということです。
例えば、L2地震を考慮する偶発作用支配状況への対応なども各編に規定されており、これまでの耐震設計編の内容がなくなったり大きく変更されたりということではありません。地震時の道路橋の応答などの研究をしてきた専門家や動的解析など地震時の設計計算をメインにされてきた人たちなどで、ほとんど耐震設計編だけを見て仕事をしていた人にしてみたらその編がなくなったので一瞬ギョッとするのかもしれません。
しかし、道路橋示方書はすべての条文が密接に関係している一式の技術基準であり、すべての条文が同時に満足されることが求められています。図書として分冊化されているだけなので耐震設計編だけしか見ずに設計出来るわけではありません。
そして、道路橋が備えるべき性能を規定する技術基準としてどうあるべきかを考える立場では、例えば、必要な通行機能が確保できる範囲で一部塑性化することが許容されるとすれば、それはどのくらい稀にしか生じない状況の時なのか?といった観点で橋に求めるべき性能を検討します。そうしますと、橋を損傷させかねない稀な状況というのは、洪水や大風なども考えられるわけです。これまでは被災経験などから稀な状況として大地震に対して基準が充実されてきましたが、将来的にはひょっとすると洪水や台風などに対しても規定を充実していくことになるかもしれません。そのとき洪水設計編、台風設計編といった形で現象や原因事象ごとに編を追加していくという話にはならないのではないかと思います。
また、これまで鋼橋とかコンクリート橋といった主に扱う材料で業界が構成されてきましたが、例えば鋼橋といっても、主桁が鉄であっても床版と下部工はコンクリートであるとか、あるいは上部構造と下部構造で区別しようにも支承がないラーメン橋もあります。少なくとも性能規定型の設計基準として、無理やり鋼橋・コンクリート橋というくくりで規定をまとめることもおかしな話という状況になってきました。
道路橋示方書は要求性能を規定する性格の設計基準であり設計マニュアルではありません。設計実務に使いやすいかどうかはもちろん重要ですが、性能規定型の基準体系として、矛盾や過不足がなく要求されている性能が明確の形で構成されていることも重要だと思います。
――具体的にはどのような考え方になるのでしょうか
玉越 道路橋示方書の正式な名称は「橋、高架の道路等の技術基準」です。
昔は、鉄で主桁や床版がどう作りうるのか、コンクリートを使ってRC、PCといった考え方の部材をどう設計すればよいのか、といった実現手段そのものを規定として基準化してそのように作ってもらえれば必要な性能はあると認めましょう。とするしかなかったので、そのような基準になっていたのですが、今や技術的には何でも作れるわけです。多分、FRPのような材料でも必要な性能をもつ橋を技術的には作れるはずです。だから、特定の材料や設計法を前提として実現手段を縛るということではなく、橋として求められる最低限の性能だけをできるだけ普遍的かつ明確な形で規定しようというのが性能規定化で目指しているところです。もはや「これは鋼橋ですから」「これはコンクリート橋ですから」と材料で区切ってそれぞれの実現手段だけで縛っていく必要はない。ハイブリッドでもなんでもよいのです。
では、橋が備えるべき性能とは何なのか?ということになるのですが、例えば、日常的な荷重に対しては弾性範囲内にとどまってそのまま使い続けられるようにしてほしい。稀にしか遭遇しない極端な状況に対しては、限定的な損傷にとどまって復旧可能であればよい。といったことが本質的には道路橋に求められている。そうであれば、道路橋は道路機能を提供するためのものですから、どんな状況のときに道路がどういう形で使えるのかが道路橋の備えるべき性能として求められているととらえて、それがどの程度確実に達成できればよいかを技術基準は要求性能として規定すればよく、材料や手段を限定して規定しない方がよいのではないか、ということで性能規定化されてきたのです。

最低限の性能を要求する方法
――それは地震に限らないということですね
玉越 そうです。地震に限らず滅多に遭遇することがない極めて稀な状況に対しては、そういうことが起こりうることはわかっているけども落橋さえ免れてくれればいいということもあると思います。そしてそれは、どんな材料でできている橋なのかによって変わるものではありませんし、地震だけでなく洪水や高潮、台風など原因によって大きくかわるものでもない。さらに立地条件によっては、土石流や噴火のようなものに対してそのようなことを考えて道路や橋をどのようなものにするのかを考えてもよいのだと思います。
こうした考え方で基準の要求も普遍化しつつ継続的に発展できるようにしようとすると、耐震設計編という枠組みが時流に合わなくなってきたということではないでしょうか。各橋梁で想定されるリスクは様々です。実際、最近は地震だけではなく、洪水でも被災する例も少なくないです。火災が気になるのであれば火災を考えればいい。鉄道が突っ込んでくるリスク、噴火、津波など、何が起こるかわかりません。税金を使って管理している管理者が、個々の橋について「ここはこういう稀な状況に対して、こういう性能を持たせよう」と判断してやればいいわけです。
今後は、様々な自然災害などに対しても道路の機能をどう確保するのか、そのために橋にはどんな性能を持たせるのがよいのかといったことを、発注者もコンサルタントも一緒に考えて橋を作ったり、点検時の診断を行ったりすることがますます重要になっていくと思います。
「事象を問わず性能で評価する」という考え方が管理者や設計者などインフラ従事者に浸透していくことが重要と思います。耐震設計や耐風設計といった専門技術分野や耐震工学や耐風工学といった既存の学術分野について何か問題があるとか、意見があるということは全くありません。むしろ、性能規定型基準を活かすには、要求に対して自由な発想で合理的にそれを満足させられる高度な知見や多様な技術が必要です。むしろ今まで以上に積極的に引き続き研究や技術開発をしてもらわなければいけません。そのとき、「耐震設計」といった既存の特定の専門分野だけで固まるのではなく、様々な専門分野が交流を活発におこなうことで新しい発想の技術や設計法などが開発されることに期待しています。

橋の性能 使用目的と適合性の満足




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