Interview

令和7年道路橋示方書改定解説インタビュー

2026.01.30

性能規定化の「概成」を実現

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国土交通省
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能登半島地震などを踏まえ複数回の大地震も想定

能登半島地震などを踏まえ複数回の大地震も想定

橋梁接続区間の配慮事項を明確化 土工部との連続性を確保

 ――能登半島地震を踏まえた対応について教えてください

 玉越 耐荷性能についてですが、例えば平成29年までの示方書のレベル2の地震動を一律に引き上げることまでは社会的要請からも現在求められていないであろうとの判断で今回の基準では設計で考慮する地震動そのものの見直しは行われていません。

 一方で、熊本地震や能登半島地震では、橋梁区間とそれに連続する土工部との間で大きな路面段差が生じて車がなかなか通れないということが起きています。また橋台近くで土工部が大きく崩れて、橋は問題がないものの道路区間としては通行困難になったところもあります。

 同じ道路区間を支える道路橋も土工構造物も、「道路がどういう状況に置かれた場合に、どのような道路機能が期待できるの」といった共通の定義でそれぞれの耐荷性能などの物理的な性能が規定されるようになれば、橋梁区間も土工区間も道路としてどのような状態になるという点では相対比較ができるようになりますので、路面の連続性の確保や被災形態の整合性を図るといったこともできやすくなると思いますが、今のところ土工の方の基準は道路橋示方書のような形では性能規定化されていないのが実態です。

 ――土工との「橋梁接続区間」についてはどのような規定になっているのでしょうか

 玉越 これまでも橋台背面部には踏みかけ板を入れるなどで大きな路面段差が生じにくいように配慮することは求められていましたし、橋台背面アプローチ部という名称で平成29年の改定では橋台背面の土工部については橋の設計において路面の連続性確保の観点で注意することが規定されました。しかし、近年の被災経験からは、橋台背面とするには少し離れた位置までも路面の連続性の観点からは注意する必要があると判断されたために、橋台背面アプローチ部という名称は廃止し、「橋梁接続区間」という概念を新たに導入して、橋の区間の外の区間を含めて地震時の被災形態なども考えて路面の連続性の確保や早期に供用性を回復できるための配慮を行うべき区間を適切に設定したうえで、必要な配慮を行うことが求められることになりました。現時点でできる橋梁側からの精一杯の努力です。


「橋梁接続区間」という概念を新たに導入


 

 具体的には、例えば、設計者が橋の基礎構造を適切な地盤上に位置するように下部構造の位置を決定すること。盛土材の流出による路面保持機能の低下を生じにくくすること。切土など路側斜面の崩落の発生による通行機能への影響を生じにくくすること。盛土や切土における所要の排水機能の確保を確実にすること。路面に滞水が生じにくくすること。路外からの落石や倒木による通行機能への影響を生じにくくすること。などの配慮が求められています。

 ――もう一つの対応は何でしょうか

 玉越 最近の大きな地震が発生の際の、気象庁や国交省の記者会見を見てもわかると思いますが、特に大きな地震が発生すると「一週間以内にまた同じぐらいの地震が来る可能性が高いので気を付けてください」と注意を促していると思います。実際に熊本地震の際でも2回目に初めのより大きな地震動が観測されています。

 すなわち、偶発作用支配状況に相当するような大規模な地震が発生した場合、その地震の一環として複数回最大級の地震動が発生しうる考えるべきとの認識が一般化しています。

 一方で、そのような大規模な地震の際には、道路橋示方書では部材によっては一部塑性化させたり限定的に損傷させたりすることも考慮できることとなっていますので、そのような部材が一度目の地震動で想定通り塑性化したり損傷が生じたとして、それを補修する間もなく同規模の地震動の影響を受けても橋として大丈夫なのか?という点が議論になりました。

 そこで、今回の改定にあたって、規定内容を全部見直して、このような大規模な地震動の続発に対して問題ないかどうかの確認が行われました。その結果、地震時の橋脚の塑性化などの規定では、その根拠となった実験では複数回の繰り返し載荷が行われており、かつそれに対しても安定した抵抗が期待できるように制限値や構造細目などの規定が定められていましたので、結果的には続発の影響に対してもこれまで規定されていたもので所要の耐荷性能は確保できると判断されました。

 一方で、特にそのような根拠で設計をされているわけではない変位制限のためのコンクリートブロックではこれまでの地震で実際に機能した時に、一度目の部材の衝突の影響でかぶりコンクリートが大きく剥がれ落ちて遊間量が過大になってしまったり、せん断破壊のような形態で破壊したりして、2回目の地震動に対して所要の抵抗が期待できない状態になったものもありました。これらはいずれも古い基準のものであり、耐震設計の内容自体も今とは違いますので何か不備があったということではないのですが、少なくとも今後設計するものについては、偶発作用支配状況に相当するような地震については、そこで考慮すべき最大級の地震動が複数回発生することについても必要な配慮を行わなければならないことが規定されました。

 ――能登大橋の変位制限の損傷も問題になりましたね

 玉越 変位制限のためのブロックなどは衝突力まで具体に想定して設計するようなことも難しい一方、かぶりコンクリートの周りを何かで巻いて拘束して破壊しても遊間の拡大や抵抗力の低下を抑えるといったこともできると思いますし、いろいろな工夫ができると思います。また、既設橋についても構造や設計条件によっても実際に続発に対してどのような状態となる可能性あるのかはまちまちですし、そもそも問題になるような状態にならないことも考えられます。そのため既設橋については維持管理しながら管理者が必要性も含めて判断すればよいのだと思います。
これが能登半島地震を踏まえた二つ目の対応です。

 ――減衰付加装置についても対応があったと聞いています

玉越 道路橋示方書は部分係数設計体系を基本としており、抵抗特性のばらつきの影響が部分係数という形の安全率の数字として具体的に考慮されます。

 例えば、コンクリート部材や鋼部材に対しては、使用材料の品質や特性がそれぞれのJISや関連の公的規格に適合していることを前提として部分係数が設定されています。
耐荷性能の評価にもちいる状態の推定にあたって、コンクリート部材や鋼部材はJIS等で保証された信頼性が考慮されるのに対して、JIS等で信頼性の程度が保証されているわけではないダンパーのような製品をそれらと同じ位置づけで耐荷機構の一部を担わせようとしてもどのように安全率をとればよいのかについてデータも知見もないことが問題となってきました。

 鋼材やコンクリート材料を用いる場合には、JIS等で公的に保証された信頼性が求められるだけでなく、それらを用いるにあたっても配筋の方法など様々な構造細目や適用条件の遵守が求められるのに対して、それらの部材を製品のダンパーに置き換えた瞬間、信頼性や安全率の妥当性が何ら問われなくなるというのはおかしな話ですし、それでは必要な橋の性能が満足されるのかどうかについて疑義が生じることは避けられません。

 一方で、減衰付加装置が期待通り機能すれば、地震時の応答が小さくなって橋の耐荷性能にとって良い効果があることも間違いありません。そのため、信頼性については公的規格で制御できないため個別に判断してもらうことにしても何とか基準上採用を否定しないようにできないか検討がなされました。

 その結果、個々に採用可能と判断した減衰付加効果とその信頼性を見込んで通常の耐荷性能の評価を行うことを許容する一方で、減衰付加効果が発揮されない条件でも耐荷性能の評価を行って少なくとも落橋のような致命的な状態にならないようにしなければならないこととされました。また、減衰付加装置を用いる場合にはその取り付け部、それが取り付けられた側の部材についても限界状態の現れる順序や変形や変位など減衰付加装置が所定の機能を発揮するために必要な条件が確実に満足されるようにしなければないことなども規定されました。

 なお、減衰付加装置には油圧ダンパーだけでなく様々な材料や機構のものが考えられますが、基準上は特定の形式や材料に限っているわけではありません。

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便覧から技術標準へ

耐久性便覧は考え方を共通化

 ――道路橋示方書改定と合わせてなされる便覧の改定についてはどうなっていくのでしょうか

 玉越 社会情勢の変化に合わせて道路橋示方書が性能規定化されてきたように、日本道路協会から図書として出されてきた便覧をとりまく環境も変わってきています。昔は技術基準である道路橋示方書をいろんな意味で便覧が補ってきたところがあります。設計技術や代表的な手段などについて実務の参考になるよう教科書的な説明とともに紹介されてきました。他方、道路橋示方書が性能規定化されるまでは、設計方法や手段などが多く規定されており、それに従うことで要求性能が満足するとみなすという仕様規定的な性格のものでした。その結果、便覧に記載される設計方法や手段によれば道路橋示方書の規定が満足される場合もあれば、必ずしもそうではない場合もあったりして運用上混乱も見られました。例えば、便覧に載っていればそれは基準と同様にそのまま使えるといった誤解が生じたり、なぜ「便覧で規定しているのか」と批判されたりすることも少なからずありました。

 しかし、道路橋示方書が性能規定化され、基準が要求性能を規定する一方、達成手段には自由度があることが明確になりました。また技術の進展もあって多様な設計技術や材料も開発されてきており、日本道路協会から便覧として教科書的にそれらを取捨して紹介することもいろんな意味で難しくなってきました。

 そこで、道路橋示方書に関係する日本道路協会の便覧は、改定のタイミングに合わせてその内容が「技術標準」に見直されてきています。

 道路橋示方書は国が定める技術基準として要求性能を規定し、要求を明確にするために最低限規定しておく必要がある手段もみなし適合仕様として規定されます。しかし、手段には選択肢が多くありますし、みなし適合仕様として規定されない方法の中には、過去の経験などから特段の都度の検証を行うことなく性能を満足できると見なせるものもあります。そこで、道路橋示方書の原案を検討する第三者委員会と連携して日本道路協会で「便覧」としてそれらを掲載した図書のとりまとめが行われています。

 道路橋示方書は要求性能を規定し、日本道路協会の図書では条文の解説のみを記述したものを付して「道路橋示方書・同解説」としてとりまとめ、基準の要求を満足するとみなせる標準的な方法については「便覧」という形でとりまとめて実務の便を図るという関係です。

 必ずしも便覧に記載された標準的方法でなければならないということではありませんし、便覧に記載された方法でも、条件によっては道路橋示方書の要求を満足できないことも起こりえますので、あくまで技術基準である道路橋示方書に照らして正しく活用されなければならないことはいうまでもありません。

 ――耐久性便覧は従来の疲労や防食の便覧などを束ねる形になるということを聞いています

 玉越 道路橋示方書では耐久性能も耐荷性能の前提が維持される時間という定義で普遍的な要求として位置づけられました。そのため、疲労や腐食といった現象毎にとりまとめるのではなく、道路橋示方書が求める耐久性能を満足する上での標準的方法やその考え方などを技術標準としてとりまとめることで作業が進んでいます。

 冒頭に、共通編として耐久性能確保の方法として道路橋示方書に規定される方法1、2、3のそれぞれについて考え方や標準的な解釈方法などが示され、その後ろに耐久性能確保の標準的方法として従来の防食便覧や疲労設計指針などから必要な内容を新しい便覧の位置づけにふさわしい形に見直したうえで付けることになると思います。

 ――最後に一言お願いします

 玉越 時代とともに道路橋示方書をとりまく社会環境も技術環境も変化してきています。また、既設構造物が増えてくる中、時々に道路ネットワークが求められる機能を発揮できるようにするためには、整備だけでなくともに道路を支える既設構造物への対応も整合して要求性能を満足するものにしていく必要があります。道路橋示方書はあくまで設計技術基準ですが、道路ネットワークのアセットマネジメントの視点からは、調達制度、法定点検などの維持管理のための制度など広く関係する基準類や制度などが調和しながら社会ニーズに適合するように改善されていくことが重要です。

 道路橋示方書の性能規定化もそのような全体枠の中の一つにすぎません。今回の改定で性能規定型基準として体系的には概ね完成しました。さらに進化させつつ、これをフル活用できるための部品を増やしていくことは、応用される制約の多い補修や補強のためにも急務かです。多様なパフォーマンスが保証された照査基準の品揃えを豊富に用意して構造物への対処技術を継続的に充実・高度化してくことが、日本のインフラ技術力の維持にも不可欠な重要な取り組みなのではないかと思っています。

 ――ありがとうございました

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