Interview

能登復興事務所 60人の精鋭で局全体に匹敵する予算を執行

2024.07.31

住民と対話しながら、かつ迅速に復旧復興を進める

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国土交通省
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>杉本 敦氏

国土交通省北陸地方整備局
能登復興事務所

杉本 敦

 国土交通省北陸地方整備局能登復興事務所は、元日に大きく被災した能登半島の復興を担うべく設置された復興事務所である。元日の地震は、2016年に起きた熊本地震を彷彿とさせる地震であり、L2地震が短時間に2度起こり、多くの人命を奪い、建物の被災、港湾の隆起などによる損壊、道路網の寸断なども生じた。現在は7月末の道路網の全面的な仮復旧に向け工事を進めている。その内容と本復旧の展望について、杉本敦所長に聞いた。(井手迫瑞樹)

(※本取材は5月中旬に行ったものです)

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全体像を把握できないぐらい損傷が多い

能登半島全体で大きく崩れる

場所によっては海岸が4mも隆起

 ――今次震災の全体的な被災状況について教えてください

 杉本所長 道路は一般国道、のと里山道路、能越道とも大きく被災しました。県道や市道はさらに大きな被災を被りました。全体像を把握できないぐらい損傷が多く、特に各市町の管理道路においては 、未だ確認ができず、応急もできてないところがたくさんあるぐらいの状況になっています。山間地の道路が多く、今回の地震で山そのものが崩れている個所も多かったため、災害が大きくなったのではないかと感じています。

 能登半島全体で、かなり大きく広範囲に崩れていて 、いくつか閉塞が生じている河川もあり、天然ダム状になっており危ないところが多数ありました。
梅雨時期に崩壊が進めば大きな危険が生ると判断し、当事務所で権限代行を受けている箇所は、何事も起きないよう、住民の方々に安全に生活してもらえるよう応急対策を行いました。

 一方、輪島市や珠洲市など、外海に面している地域は地震により隆起が生じた箇所があります。他に類がない被災状況と言えます。海面が隆起したことにより、港湾が使えない箇所もあります。港湾においては別途、港湾復興推進室が設けられており、その中で一生懸命考えていくことになろうかと思います。


隆起した海岸①(井手迫瑞樹撮影、協力:エコ ジャパン)


 ――隆起した港湾は、先日何か所か取材しました。地元のコンサルタントさんや橋梁技術者の方と一緒に取材しましたが、地元の方も、このような大規模な隆起を伴う地震災害は初めてだと話されていました。曰く、「砂浜が後退していく様を今まで見ていたが、今回は砂浜が出現するような地震であった」と。

 杉本 確かにそうですね。


隆起の影響で拡大した砂浜(井手迫瑞樹撮影、協力:エコ ジャパン)


 ――水に隠れていたテトラポットは中性化の影響を受けず、きれいなわけですが、その白い高さの部分が隆起しているわけですよね。

 杉本 そうです。

 ――場所によっては、4mも隆起していました

 杉本 隆起している個所は軒並み2~4m程度上がっています。通常の港湾だけではなく漁港も同じような被害が生じています。その復興手法についても、考えていかねばならないでしょう。


漁港も大きな被害を被った(井手迫瑞樹撮影、協力:エコ ジャパン)


 ――道路はどうですか、外海の方で崩れていて 河川閉塞も確かにありました、小河川だけでなく、比較的大きい河川でも部分的に崩れている個所がありました

 杉本 そうです。

 ――先ほど話された通り、豪雨により閉塞した箇所が決壊してあふれると、そのまま土石流のような被害が生じます。どのようなスピード感で直していきますか

 杉本 当事務所が代行している河川においては、一生懸命、河川チームが頑張り、梅雨前まである程度のその流量を確保するような断面で整備しました。5月中旬の段階までにも、水が溜まらないような最低限の流積断面は確保済みでした。今後は、非出水期以降に、本格復旧を進めていくことになろうかと思います。


河川の仮復旧状況①(能登復興事務所提供、以下注釈なきは同)

河川の仮復旧状況②

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致命的な落橋はなかった

古い基準で建設した盛土が崩壊

――道路関係についてもう少し具体的にお願いします

 杉本 道路の構造物別で考えると、盛土がやはり一番被害が大きかったといえます。一方で、切土はいくつか崩れた箇所もありましたが、押しなべて被害は軽微でした。橋梁は、今までの地震に対応した設計基準の変更や、それに基づいた耐震補強が功を奏しており、段差などの発生はありましたが、致命的な落橋や倒壊などの損傷はありませんでした。



盛土の損傷状況①(井手迫瑞樹撮影、協力:エコ ジャパン)


 今回の1番大きいところは 高速道路系(能越自動車道)では盛土の崩壊が大きく生じています。盛土が崩壊していなくても、盛土切土の境で盛土が動き、段差や亀裂が生じているケースがあります。ただ、盛土部でも設計基準や供用年次が新しい箇所では、切盛土境界に変位が生じている個所はありますが、崩壊は起きていないか、起きていても小規模でした。


能越自動車道の盛土被害の特徴(令和6年能登半島地震道路復旧技術検討委員会資料より抜粋)



盛土部の損傷状況②


 大きな盛土損傷が目立つ「のと里山海道」は、古くは昭和48年に供用された県管理道路です。(供用年次から設計基準を逆算すると)古い基準で建設された箇所もあり、その部分が大きく崩れていました。前の地震(2007年3月25日に起きた能登半島地震)の時に崩れた箇所は新しい基準で直しており、そこは健全でした。直し方としては正しかったわけですが、先の地震で崩壊していなかったところには手を入れておらず、そこが今回の地震で壊れています。
トンネルは、国道249号において、3か所のトンネルが被災しています。損傷の状況としては、山全体が動いているトンネルが2か所あります。中屋トンネルと大谷トンネルです。

 両方とも覆工コンクリートが崩れています。とりわけ、大谷トンネルの方は、未だに山が動き続けている兆候があり、計測をしつつ、復旧手法を模索する方向です。

トンネルは3か所が被災 中屋トンネルは縫い返し工法を施工中

大谷トンネルは別線の建設も選択肢 

 ――その2トンネルについては、同じ位置に再覆工を行う方針ですか、それとも別の箇所に改めて掘るという形になるのでしょうか

 杉本 大谷トンネル(延長782.0m、平成9年施工、NATM)はまだちょっと判断できないです。山が動いており、さらに崩れが生じている個所の一部に、滑りが想定される部分が入っている可能性があります。そうなると同じ箇所に再覆工して通すのは難しいと思っています。



大谷トンネルの損傷状況


 中屋トンネル(延長1259.5m、平成4年施工、NATM)は、地震時には大谷トンネルと同じように山が動きましたが。その後は、山が安定して落ち着いており、ボーリング調査を行っていますが、滑り想定箇所でも大きな動きはなく、今後は山の変状は生じないのではないかと考えています。したがって、応急復旧できるように、覆工が崩壊した箇所についてトンネルの縫い返し工法を施工中です。同施工と同時に山の調査も引き続き行っており、地山が完全に安定状態にあると判断できれば、本復旧に入ることになります。ただ調査の結果、地山が未だ動いていたり、滑りが想定される個所がトンネル構造まで影響するような箇所まで達している場合は、別線のトンネルを掘るという判断になります。


中屋トンネルの損傷状況


中屋トンネルの仮復旧状況 9月末までに1車線の仮復旧を目指す


 ――両トンネルは水対策の必要はありませんか

 杉本 ボーリングで調べていますが問題はないようです。覆工しながら壊れた箇所以外もしっかり補強ないし、小規模なひび割れについても補修するので施工時の湧水や、施工後の漏水の問題はクリアできると考えています。

逢坂トンネル 輪島側坑口付近の山が崩壊

トンネル構造延伸も選択肢

 ――あともう1つのトンネルは?

 杉本 逢阪トンネルです。ここは両トンネル坑口も含めて、地滑りが生じておりなかなか入れませんでした。元日に地震が起きて、入れたのは3月末でした。しかし、調査の結果トンネル自体はほとんど壊れておらず、大きな補修は必要ないと考えています。



逢坂トンネルの損傷状況


 ――トンネル本体の補修はしないのですね

 杉本 輪島側については坑口部分のコンクリートが損傷しているので、そこは復旧する必要があります。

 ただ損傷として1番大きいのは、輪島側のトンネル坑口を出たところにある大きな山全体が崩れている状況です。その末端が輪島側トンネル坑口であるわけですが、そこにある土を簡単にどかしてしまうと、山全体が崩れる可能性があります。
――坑口付近にある山の崩壊を抑える重しになっているわけですね

 杉本 そうです。単純にどかしてしまうと、重さが足りなくなって、山がまた滑る可能性があります。土砂をそのままにして、中をトンネルにしてもうちょっとトンネルを延伸するにしても、たぶん重さが足りず、山が動いてくる形になると考えられます。

 ――難しいですね

 杉本 難しいです。崩壊した地山を太径の鋼管杭をたくさん打って大きく止めて、坑口付近にある土砂を少し撤去して軽くしたうえで、大量の土砂を撤去するのも手間がかかりますので、トンネル構造を延伸するという考え方もあります。または土砂を全撤去して、さらに地山を安定勾配で切っていく方法もあります。いずれにせよ詳細調査をしてからになりますので、本復旧は少し時間がかかると思います。

 ――掘るにせよ、撤去するにせよ脆弱部を補強しつつ施工した方がよさそうですね

 杉本 そうした方法を取ることになります。現在はとりあえず応急道路を作って通れるようにし、少し時間をかけてしっかり安全なものを作っていこうと考えています。

多数の橋梁で段差が発生

伸縮装置部の工夫が必要ではないか

――橋梁は幸いにも落橋は生じなかったようですね

 杉本 はい。本当に幸いでした。


大谷ループ橋の損傷状況

ゲルバーヒンジを有するPC橋の緊急点検状況(井手迫瑞樹撮影)


 ――ただ、現場を見ると段差は非常にたくさん生じています。国の管理する道路でも今段差発生部をアスファルトでかさ上げして応急復旧してるところがあります。県や市町村が所管する橋梁でも同様な個所がたくさんあります。能登島に行く能登島大橋でも段差が生じていました。同じく能登半島と能登島を結ぶ、ツインブリッジのとにおいては、能登島側の橋台背面が大きく損傷していました。変位制限が完全に壊れ、能登島側に盛り上がるような形で橋台背面が大きく損傷しています。ケーブルや定着部の損傷についてもこれから調査する必要があるでしょう。熊本地震で、1番 教訓としてあったことがやっぱり段差防止工を施し、大きな地震があっても緊急車両が通ることのできるように大きい段差が生じないようにしておくことが平成29年道路橋示方書の主眼だったと思います。しかし、今回は多分それを県がやれていなかったと思います。地震発生確率が25%未満ということもあり、どうしても優先順位が低かった。そうしたことをどのように考えておられますか

 杉本 そうですね。致命的な落橋を生じさせなかったという点では阪神淡路大震災や東日本大震災の教訓が実践できていたと思います。ただし、支承が壊れていた箇所もあります。さらにある意味正常に作動したわけですが移動制限装置が壊れている個所については再設置を進めていく必要があります。


段差が生じた橋梁の修繕状況

穴水市内 橋脚が沈下した橋梁(井手迫瑞樹撮影)

穴水市内 住宅の被害状況(井手迫瑞樹撮影)

輪島市内の被災状況 輪島朝市の近くに架かるいろは橋は無事であったが
(井手迫瑞樹撮影 協力:エコ ジャパン)


 桁端部の伸縮装置近傍や橋梁背面、盛土において損傷が生じていたのは事実であり、(既設橋であっても)踏掛版など段差防止工の設置は進めていく必要があります。

 また伸縮装置部の損傷が目立っていますので、それをどのような伸縮装置に直していくか、というのも重要になります。現在の伸縮装置部が(伸縮限界を超えて大きく)動き、鋼製の伸縮装置では、上の方に大きく曲がっているケースがあります。そうした鋼製伸縮装置は簡単に壊せないため、いびつなぐらいアスファルトで盛り上げてスロープを造り供用させざるを得なくなっています。今後は伸縮装置部を工夫する余地があるのではないかと考えています。
穴水道路の七海2号橋の壊れた鋼製フィンガージョイントの様子です。


 ――こんなに細かく破断したのですか

 杉本 ある意味、ここまできれいに破断してくれれば、取り外しやすいので段差修正工ももう少し簡単にできるのですが。フィンガーの歯が上を向く形で損傷している場所に関しては、それを埋めなければならず、段差防止工の盛り上げ高さはより高くなります。そのためジョイント交換までの仮復旧期間中は、通行車両に徐行していただいております。

 ――七海2号橋の橋梁概要は

 杉本 鳳珠郡穴水町七海に供用されている橋長178mとPC3径間ラーメン箱桁橋です。

 七海1、2、3号橋とあって2号橋と1号橋(橋長203m、PC4径間ラーメン箱桁橋)で伸縮装置にフィンガージョイントを採用していますが、いずれも伸縮装置は大きく破砕しています。

 ――よくこれだけ破砕したのに落橋しませんでしたね

 杉本 変位制限がきちんと役割を果たしてくれました

 ――フィンガーは橋軸方向に動いて破砕されたのですね。これはあまり見たことがないですね。そして左右にはずれていない

 杉本 変位制限の範囲内でしかずれてないから耐えられました。

 ――能登半島内の長大橋ではツインブリッジのとが大きな被害を受けていました。能登島側に桁が動き盛り上がった形跡があり、能登島側桁端の南側の変位制限装置がもうばらばらに崩れていました。支承も桁も激突痕があり、支承自体もちょっと潰された感じがあったんですけど変位制限装置がうまく働いて、橋軸方向に動いたけど橋軸直角方向の動きは何とか制限されていました

 杉本 本当に落橋しないでよかったです。
 ツインブリッジのと、はそもそも農道橋(正式名称は『中能登農道橋』)です。国交省管轄はありません。


能登島大橋はそれほど大きな被害は見受けられなかった(井手迫瑞樹撮影 協力:エコ ジャパン)

しかしその近傍では地震の痕跡を多数見つけられた(井手迫瑞樹撮影 協力:エコ ジャパン)

ツインブリッジのと(井手迫瑞樹撮影)

能登島側橋台背面は大きな損傷を生じていた(井手迫瑞樹撮影)

桁端側は大きな力がかかったようだ。また横移動変位拘束ブロックはコナゴナ
(井手迫瑞樹撮影)

能登島側隣接橋脚の状況 横移動変位拘束ブロックが効いたことが分かる。
何度も桁が左右に揺動したのだろうか(井手迫瑞樹撮影)


 ――しかし、今後は(権限代行という形で)国交省が直すしかないように思えます

 杉本 基本的には管理者(石川県)が直していくものだと考えます。ただ、国においても、国総研などの専門家が、復旧の仕方などの相談には入っています。今後直す主体がどこになるのかというのは調査が進展してからの話でしょう。

 ―― ジョイントや桁端の損傷もさることながら斜張橋ですのでケーブルや定着部の損傷も生じていないか、気になるところです

 杉本 そのまま直せるのか、大がかりな補修になるのか、架け替えが必要なのか。いずれにせよ、もう少し詳細な調査をしてみないとわかりません。

――ツインブリッジのとの架け替えというのは……きついですね

 杉本 きついです。大変です。

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