道路橋床版の高耐久化を求めて~床版の革命的変化を追求した半世紀~
(1)私は阪大工学部・土木工学科で昭和46年に助手になり、給料を貰えるようになった
その反面、学内外の仕事も増えた。
授業担当では新任助手には必ずと言ってよいほど測量実習担当が回ってくるので、測量学の教科書を再度買い込み授業に備えた。本実習では、高低測量や三角測量は広い範囲で行う必要から、東野田学舎周りの学外に出ていく必要があり、京橋駅側の夜のネオン街を避けさせて、西にある銀橋あたりを目標にさせた。時間があれば銀橋をよく見ていたが、後に近畿地整の橋梁ドクターの調査対象になった時は率先してこの橋を選んだ。
当初は分らなかったが、この橋の車道側床版は主桁間に約3m間隔で横桁を配置し、その上に主鉄筋を橋軸方向に配置する、所謂、床版支間の方向が車両進行方向に平行の場合に当たる床版であった。昔の長大スパンの橋では、一般的に横桁を密に配置し、橋軸方向に主鉄筋を配置していたことをその後の多くの橋梁の維持管理研究で見てきた。
歩車道境界下の支持桁の内側フランジ端でせん断ひび割れが生じる
主桁が激しい腐食を呈する状態になりやすい
このような橋梁では一つ大きな弱点があったことを今思い出している。橋軸直角方法の問題で横桁を主桁間に配置するが、横桁のフランジを主桁フランジよりも低くするため、主桁本数が多い橋梁において歩車道境界にある主桁上では、床版内の配力鉄筋の内、上側鉄筋は主桁上を渡る連続鉄筋となっているが、下側鉄筋は主桁ウエブ前面で切れており連続させないことが多い。このため車道端において歩道部との連結が悪い場合には、床版厚が小さくなり、その桁のフランジ内側でせん断ひび割れが入り易く、車道端で溜る雨水が常時漏れ、下の主桁が激しい腐食を呈する状態となる(この桁は外桁の内側にあるので、人の目につきにくく、腐食が見過ごされることが多い)。
もし、この部分で下側鉄筋を上側に折り曲げ、歩道部床版と連結すると、この部位での損傷は無くせたかもしれない。一般に歩道部は進行方向に直角に配置されるので端部で主鉄筋を曲げ下げて上記の車道端で曲げ上げた鉄筋と共慟してせん断ひび割れを防いだ橋梁もある。細部構造の合理設計が必要な個所として紹介した。
上記の主鉄筋方向を橋軸方向に配置する場合と、現在一般的となっている主鉄筋を橋軸直角方向に配置する場合、のいずれがよいのかと考えることがあるが、床版の疲労耐久性の観点では、私は前者の方がよいのではと考えている。ただし、経済性からは後者の方が良いと考えられる(現在のNEXCOにおけるループ継手は配力鉄筋を主鉄筋の外側に配置しているのは良い傾向と考えられる。ただし、異方性の議論はされておらず、ループ部の曲げ半径から決めている)。
主鉄筋を車両進行方向に配置 載荷板の50cm幅で輪荷重に抵抗
ひびわれ面の磨耗劣化も抑制されて疲労耐久性は向上
約15年前に開発された少数主桁橋の開発理由は、鋼桁の施工工数を減らすことが経済性に最も効果的である考えられたことは今でも見方によっては正しいのではと思われる。しかし、自動車のダブルタイヤの設置面が幅方向50cmで、橋軸方向の設置長が20cmで変化がないとすると、主鉄筋が橋軸直角の場合、上記載荷板の20cm辺に作用するせん断力が大きく、現在の押抜きせん断破壊や疲労損傷が起り易い。それを防ぐべく主鉄筋を車両進行方向に配置すると載荷板の50cm幅で輪荷重に抵抗してくれるため、せん断破壊抵抗が大幅に増加して疲労耐久性は非常に向上するものと推定できる。また、これらの主鉄筋量の多さから、橋軸直角方向に入るひびわれのせん断力による交番作用によるひびわれ面の磨耗劣化も抑制されて疲労耐久性は向上すると考えられる。よって、床版の疲労耐久性の面からは逆に主鉄筋を橋軸方向に配置するのがよいこととなる。一つの橋梁の建設時の経済性とRC床版の疲労耐久性のどちらを優先するのか、再度検討することは大変価値あるものと問題提起しました。
疲労耐久性に優れる「土間コン」
筆者は話題3で述べたように、輪荷重走行試験機が誕生していない状態で、阪神高速道路の陥没事故原因は自動車が橋梁上を走り抜けることによる疲労現象であることを証明するため、知恵を絞っていた。ローゼンハウゼン型の疲労試験機で載荷板を複数点置き、例えば1万回毎に移動させて床版下面に形成されるひびわれパターンが実橋床版と同様になること、たわみ量が増加して、異方性版に変化していくことを説いてきた。しかし、この実験で得た疲労載荷回数を設計にどのように生かすかは説明できない歯がゆさを感じつつ、道路橋床版の維持管理の委員会活動を続けていた。
阪神高速道路公団、土木学会関西支部の照査研究会、ならびに日本道路公団大阪建設局の委員会等の活動を通じて、名神高速道路床版コンクリートは阪神高速道路のものに比較すると格段によいものであることが判った。強度、単位体積重量、弾性係数は優り、割裂した断面で観察される骨材は川砂利で、一方の阪神高速道に使用されたコンクリートはポンプ打ちで打設され始めた頃の新工法のものであった。「名神高速道路では土間コンと呼ばれていたよく締め固めたコンクリートを打設した」と当時の工事担当者の御子柴光春氏に聞いて納得した(土間コン—木製電柱を長さ50㎝程度に切ったものに4本の柄を付けて2人の作業員で順次持ち上げ、落下させて振動締め固めるもの)。
土間コンとポンプ打ちコンクリートでは、せん断強度の違いがあると共に、極端に言うとひび割れが骨材も割って間直ぐ入るのと強い骨材を避けて曲がって進行するので、ひびわれが進みにくい違いがあり、後者の方が疲労耐久性に優れるのである。