国土交通省 能登半島の被災地早期復興に道路面から全力を尽くす
震災や豪雨などによる災害が続いている。とりわけ能登半島は非常に困難な状況である。能登半島の被災状況は、日本において、未だに災害にぜい弱な個所があることが露になった事例と言える。さらに同じ年に大震災と大水害が生じ、大きな被災を被った能登半島の状態は、地震はともかく、水害に関しては常態化しており、地震国日本においては同様のダブル災害がいつ、どこで起きても不思議ではない状況を具現化させたと言える。とりわけ、1本の幹線に頼る半島部では、それは寸断された場合、復旧・復興に大きく時間を要することもまた、具現化した。今後こうした状況にどのように対応していくのか、今年度の事業なども含め、国土交通省道路局の西川 昌弘国道・技術課長に詳細を聞いた(インタビューは10月7日実施、その後の追加取材も含めて構成)。(井手迫瑞樹)
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能越道は仮復旧を完了させたが......その矢先に豪雨水害が襲う
能越道は仮復旧を完了させたが......その矢先に豪雨水害が襲う
穴水ICのループ部の集水地形など未対策箇所で大規模崩壊が生じている
――2024年1月の能登半島地震、さらには9月下旬の能登半島豪雨による道路の被災状況と復興状況、復興方針について(自治体の抱える道路も含めて)。
西川課長 能登半島の被災状況は、地震からの道路復旧を進め、のと里山海道および能越自動車道は大方を7月17日に仮復旧し、最後に残っていた能登大橋についても、9月10日に対面通行を復旧させました。さらには国道249号や幹線となる県道以下の復旧を進めていましたが、その矢先に9月下旬に生じた豪雨災害により、再び道路や河川が大きな被害を生じてしまいました。震災による県道以上の通行止め個所数は87箇所中13箇所まで減少していました。しかし9月20日以降の豪雨によって、大きな被害が生じ、9月22日の大雨直後は国道249号をはじめ、県道などで合計48箇所も新たな通行止めが生じてしまいました。それでも、復旧を支える能登復興事務所や施工会社各社、外部からの様々な応援により、10月1日時点では通行止め数を27箇所にまで減少させています。
国道249号大谷ループ橋(10月上旬(以降同じ)、本社同行カメラマン撮影)
県道50号門前町ののり面崩壊状況(左、中:本社同行カメラマン、右:井手迫瑞樹撮影)
輪島市河原田川に架かる姫田橋の流失状況(左3枚:本社同行カメラマン、右:井手迫瑞樹撮影)
門前町浦上地区の被災状況(上6枚:井手迫瑞樹撮影、下2枚:本社同行カメラマン撮影)
輪島朝市と河原田川の対岸を結ぶいろは橋、一見健全そうに見えるが……
沓の位置がずれて下フランジが曲がっている。それもそのはず護岸がこの傾斜である
(上写真は本社同行カメラマンが撮影、下2枚は井手迫瑞樹撮影)
輪島市町野町中心部の被災状況(上2枚は本社同行カメラマンが撮影、その他は井手迫瑞樹撮影)
――のと里山海道は先の能登半島地震(2007年3月25日)においても盛土崩壊が生じ、崩壊箇所は施工当時の基準より格上げした現行基準により復興しています。今回の地震ではそうした「復興箇所」は崩れず、手を入れてなかった箇所が崩れました。これを踏まえてどのように対応していきますか
西川 能越道は、平成25年の土工締固め管理基準変更および排水対策が完了された状況で施工されている盛土は大規模崩壊が起きていませんでした。しかし。それより前の基準で施工され排水対策が未了の盛土は129箇所中28箇所で大規模崩壊が生じていました。さらに、2007年の能登半島地震で崩壊し、対策を施した11箇所はおおむね健全で、大きな盛土崩壊が生じたのは、今回、最後まで能越道において片側交互通行が残った能登大橋南側付近の盛土区間1箇所でした。総じて対策を行っている個所はおおむね健全であったと言えます。
一方で07年の地震で被災がなかったため手を入れなかった箇所では、水が集まりやすい沢埋めの高盛土箇所で大きな被害が生じています。07年で被災し、対策した盛土に隣接あるいは近接する箇所、能登大橋南側の複雑な沢埋め部の大規模盛土、穴水ICのループ部の集水地形など未対策箇所で大規模崩壊が生じています。
一方で車線数が多いほど交通機能の全損失には至らないことが分かっています。4車線区間では盛土崩落個所が5箇所ありましたが、なんとか片側交互通行は早期にできるようになりました。しかし、2車線道路では16箇所が崩壊し、そのうち9箇所で交通機能が失われ、地域の復旧、復興の足かせとなったことは否めませんでした。
復旧から復興への工事が進む能越道(井手迫瑞樹撮影)
権限代行事業でも能登半島道の道路復旧・復興が進んでいる(国交省提供資料より抜粋、以下資料類は注釈ない場合は同)
能越道の線形改良も進んでいる(能登復興事務所X(旧twitter)12月12日投稿より抜粋)
地震と豪雨により2度被災した千枚田付近の仮供用道路も再び2車線確保した
(能登復興事務所X(旧twitter)12月16日投稿より抜粋)
調査次第で危険な箇所はルートや構造を見直すなど、柔軟に運用
被災メカニズムなどについて、さらなる調査や分析が必要
――そうした状況を踏まえてのと里山海道の盛土部の復興にはどのように取り組んでいきますか
西川 道路の本復旧の構造などについては、まだ検討中の部分もありますが、さらに盛土部を詳細に調査したうえで、今回被災していない箇所の補強も含めてどのように対応していくかを考えなくてはいけません。
――調査は、盛土の躯体だけでなく、地盤も詳細に行うのですか。その際に、地盤がぜい弱であれば、崩壊箇所の復興はもちろん、崩壊していなくてもぜい弱な箇所についても補強を行うのでしょうか。また、能登復興事務所の杉本所長もおっしゃられていましたが、橋梁やカルバートなどの構造でスパンを飛ばすことは考えないのでしょうか
西川 盛土のり面点検にて、地下水位が高い場合などでは、必要に応じて、ボーリングやサウンディング調査にて、盛土材料の土質分類の調査や、のり尻直下における弱層の層厚、支持層の位置・深さを確認しています。
以上の調査等を踏まえ、各箇所における施工性や現地状況に応じて、排水対策、のり尻補強対策、法面補強対策などの対策が考えられます。
なお、地すべり地帯や断層など、道路機能に支障となるリスク状況によっては、ルートや構造を見直すなど、柔軟に運用していく必要があります。
――沿岸部を走る国道249号も大きな損傷を受けています。
西川 仰る通り、地滑りや斜面崩壊など大規模な被害が発生しています。斜面崩壊は、山自体が大きく崩壊し、復旧に当たっては安定性の確認が必要です。
地滑り箇所は、規模が大きく、抜本的な復旧対応の検討が必要です。
被災規模が大きく、被災形態も多様であることから、被災メカニズムなどについて、さらなる調査や分析が必要です。その上で、被災箇所を道路構造物の技術基準で達成すべき事項と別線などを計画する事項に整理しなければなりません。構造物を配置する場合は、残存する被災リスクの軽減策についても検討する必要があります。
珠洲市内の二級河川紀ノ川にかかるイージーラーメン橋(塚田橋)。護岸は損壊しても橋は流されず残った例(井手迫瑞樹撮影)
大谷トンネルと、中屋トンネルで覆工崩落
八世乃洞門新トンネル 豪雨水害によって坑口付近で大規模な斜面崩壊
――トンネルの損傷状況と対策状況は
西川 特に大きな被害があったのが、大谷トンネルと、中屋トンネルです。両トンネルとも覆工崩落が生じています。
大谷トンネルは、地滑り地帯に位置し、施工当時から対策していたトンネルでした。地震による地山の大規模な変形の影響が考えられます。
中屋トンネルは地質の変化が大きい区間や膨張性地山の区間があり、同トンネルも地震による地山の大規模な変形の影響が考えられます。また、豪雨災害によって坑口付近で斜面崩壊が生じ、復旧工事に従事していた作業員が亡くなられる災害も生じてしまいました。
八世乃洞門新トンネルにおける地震の影響は坑口付近の落石や崩土などがありましたが、さらに豪雨水害によってこちらも坑口付近で大規模な斜面崩壊が生じました。
トンネルの対策の今後の方向性については、地山の大規模変位など、構造物による対策に限界がある事象も想定されていることから、路線計画やトンネル区間の設定において、地山の大規模変位が懸念される個所を避けるなど、被災リスク軽減を図る必要もあるかと思います。
地山の大規模変位が懸念される箇所を避けられない場合などには、トンネル内部空間での利用者被害リスクの軽減や速やかな通行機能の回復を可能にするため、覆工コンクリートの崩落などが生じにくい対策を検討することにしています。