Interview

国土交通省 能登半島の被災地早期復興に道路面から全力を尽くす

2025.01.01

国道・技術課 西川 昌宏課長インタビュー

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2025年新春インタビュー 国土交通省
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鉄筋コンクリートを塩害からがっちり守り抜くAG-エポキシバー ホイールローダ遠隔操作システム Tunnel RemOS-WL

国道29号津ノ井バイパス(広岡~西大路)2.8kmは橋梁約88%占める

国道29号津ノ井バイパス(広岡~西大路)2.8kmは橋梁約88%占める

東九州道の南郷奈留道路は、東九州道の最後の新規事業着手

 ――2024年度の重点道路新設・改築事業の計画と進捗状況、主な新規事業化区間について教えてください

 西川 2024年度新規事業個所は、北海道開発局管内が北海道横断自動車道の蘭越倶知安道路(ニセコ~倶知安)11.7km(※構造物比率:橋梁約10%、土工約90%)、同女満別空港網走道路(女満別空港~網走呼人)10.9km(※構造物比率:橋梁約4%、土工約96%)、東北地方整備局が国道4号水沢金ケ崎道路3.1km(※構造物比率:橋梁約14%、土工約86%)、関東地方整備局が新山梨環状道路(桜井~塚原)5.5km(※構造物比率:橋梁約2%、トンネル約87%、土工約11%)、中部地方整備局が中部縦貫自動車道高山東道路(平湯~久手)5.6km(※構造物比率:橋梁約1%、トンネル約88%、土工約11%)、中国地方整備局が国道29号津ノ井バイパス(広岡~西大路)2.8km(※構造物比率:橋梁約88%、土工約12%)、国道2号台道鋳銭司拡幅2.8km(※構造物比率:土工100%)、四国地方整備局が四国横断自動車道宿毛内海道路(一本松~御荘)9.8km(※構造物比率:橋梁約12%、トンネル約15%、土工約73%)、同道路(宿毛和田~宿毛新港)7.1km(※構造物比率:橋梁約18%、トンネル約21%、土工約61%)、阿南安芸自動車道奈半利安芸道路(奈半利~安田)4.0km(※構造物比率:橋梁約11%、トンネル約14%、土工約75%)、九州地方整備局が東九州自動車道南郷奈留道路13.3km(※構造物比率:橋梁約18%、トンネル約2%、土工約80%)、中九州横断道路大津道路4.8km(※構造物比率:橋梁約2%、土工約98%)となっています。

2024年度新規事業個所



 四国横断道は、8の字ルートの完成に向けて、事業未着手の区間も残り少なくなってきています。さらに東九州道の南郷奈留道路は、東九州道の最後の新規事業着手となります。

 2024年度完成区間は28区間141.7kmが新たに開通する予定です。

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国道4号箱堤高架橋MR(複合現実)を活用

岐阜山県第一トンネル 延長4,931mの長大トンネル

 ――2024年度の国土交通省所管の主要橋梁・トンネルにおいて注目すべき構造物について

 西川 今年度供用区間においては、まず橋梁においては国道4号仙台拡幅箱堤高架橋と東海環状自動車道北勢第一高架橋、国道42号新宮紀宝道路の熊野川河口大橋があります。

 国道4号箱堤高架橋は橋長285m、総幅員18.75mの鋼5径間連続箱桁橋で側径間をトラッククレーン+ベント工法で施工し、国道4号と都市計画道路元寺小路福室線が交差する、日本でも有数の交通量がある箱堤交差点を夜間通行規制して送り出し架設しました。交差点を跨ぐ径間(P2~P3)の長さは65mで同橋の最大支間長となっており、手延べ桁を使い、ダブルツインジャッキや2台の運搬台車、ベント上のエンドレスローラーを用いて架設しました。送出し部の手延べ桁も含めた延長は100m強で、総重量は710tに達しました。


箱堤高架橋


 同橋は、架設前から、ベント設置や地組、桁架設、トレーラーの進入、退出など、様々な配慮を行うためMR(複合現実)を活用しています。MRを実際の施工シミュレーションに用いることで、道路俯角や機材配置の検証などを4次元的に行うことが出来ました。交通量の多い現場における俯角や入出路の検証は手間と危険を伴いますが、MRを用いることで安全性を向上させつつ、検証する手間も減らすことができています。

 さらに送り出し架設においては、デジタルツインを用いることで、実際の架設進捗とデジタル空間の想定進捗との同期やずれを確認し、安全かつ効率よく施工することができました。

 東海環状自動車道(北勢~四日市)間の北勢第一高架橋の特徴は、その橋長です。橋長は1,330mと本事業の今年度供用区間の中でも最長の橋長を誇ります。形式は北勢基点側が橋長248mのPC7径間連結コンポ橋、そして他の延長は全て鋼8径間連続少数鈑桁橋×3連(376m+368m+338m)となっています。
この橋梁形式については、今回施工箇所と一般道との近接状況などの現地条件を踏まえて、経済性や施工性・維持管理等の観点から橋種を選定しています。また、基礎形式については、地質調査結果を踏まえて、直接基礎または杭基礎(約10m程度)採用しています。


北勢第一高架橋


 熊野川河口大橋は、三重・和歌山県境の熊野川河口部にかかる橋長821m、幅員12.65mのPC7径間連続箱桁橋です。河川内かつ河口部での施工であり、紀伊半島大水害(平成23年)の教訓から、上部工は仮桟橋の設置が許されず、台船を用いた施工が要求される厳しい条件下の施工でしたが、無事橋梁を完成させることができました。基礎は、橋台部は鋼管ソイルセメント杭、河川内の橋脚部はニューマチックケーソンを用いています。


熊野川河口大橋


 また、塩害環境が厳しい河口部であるため、コンクリートかぶり厚を70mm確保するとともに、エポキシ樹脂塗装鉄筋やエポキシ樹脂被覆PC鋼材を採用しています。支承は橋台部においては1基あたり10300kN~10700kN橋脚部においては31500kN~37400kNの鉛プラグ入り積層ゴム支承を採用しています。支承もボルト部とせん断キーにST-SGN12、ソウルプレート部にAl-mg合金溶射+フッ素樹脂塗装によるトップコートを施すなど河口部の厳しい塩害に対応しています。

 トンネルは東海環状自動車道路の関~養老区間に位置する岐阜山県第一トンネル、国道42号有田海南道路5号トンネル、国道201号の八木山バイパスに置ける筑穂トンネルの3工事が挙げられます。


岐阜山県第一トンネル


 岐阜山県第一トンネルは、延長4,931mの長大トンネルであり、65か月もの長期にわたる工期を必要としました。基本的にはNATM(発破掘削)を使用しました。

 断層がトンネルルートを横切るように分布しており、その周辺では岩盤が劣化している可能性があったため、切羽の安定対策として補助工法(注入式フォアポーリング)を行いながら掘削を実施しました。しかしながら、局所的に発生する集中湧水による天端部の抜け落ちや変状箇所が発生したため、空洞充填、増しロックボルトを行うなど様々な対応を行いながら施工を実施しました。

 有田海南道路5号トンネルは、同道路の最長のトンネルで2,033mの延長ですが、岐阜山県第一トンネルを上回る73か月もの工期を必要としました。これは図のように破砕帯が多くの箇所であり、慎重に掘進する必要があったためです。


有田海南トンネル


 破砕帯が多く地山が脆弱であることから、切羽の安定対策として補助工法(鏡ボルトや注入式フォアポーリング等)を行いながら施工を実施しました。

 国道201号八木山バイパス筑穂トンネルは延長1,311mのトンネルです。1期線に極めて近接しており、施工ヤードの確保や現場までの車両進入を確保するために写真のような桟橋を必要としました。また、掘進にあたっては、数か所にアプライト貫入岩(強風化層)があるため、同箇所については手厚い崩落対策を行いながら施工しなければならない、厳しい施工条件がありました。


筑穂トンネル


 同現場ではICT施工も取り入れており、山岳トンネル掘削時に切羽近傍のずり運搬に使用されるホイールローダの遠隔操作システム「Tunnel RemOS – WL」を採用しています。また、吹付も同様にICT施工を行っており、山岳トンネルの「吹付ナビゲーションシステム(ヘラクレス-Navigator)」を採用しています。

国道57号宇土道路 網津長浜トンネルは延長2,247m 軟質化した地層も含まれる

国道357号東京湾岸道路の塩浜立体 交差点部を多軸式特殊台車で架設工事

 ――設計中や施工中の橋梁やトンネルについても数例ずつ教えてください

 西川 国道57号宇土道路の網津長浜トンネルは、延長2,247mのトンネルであり、宇土道路のうち最も延長が長いトンネルです。現在、NATM(発破掘削)を想定し詳細設計を進めておりますが、事前の地質調査で掘進方向毎に異なる地層分布を確認しており、中には風化により土砂化が進み軟質化した地層なども含まれることから、地質を把握しながら補助工法を適切に選択し、掘削を進めることが重要となります。

 国道357号東京湾岸道路の塩浜立体では、塩浜交差点付近で橋梁の架設工事を進めております。架設した海側第3橋は、延長222mの鋼6径間連続合成鈑桁で、重交通となる現道への影響を極力小さくするため、今年7月に交差点部を多軸式特殊台車で架設工事を行いました。また架設のための現道の通行止めが23時~翌5時と限られおり、架設工事を正確、安全かつ効率的に行うため、事前の時間軸を含めた施工シミュレーションに、デジタルツインを活用しました。

施工進捗管理を共有する「SMART CONSTRUCTION Dashboard」というシステムを活用

大安2高架橋4鋼上部工事でデジタルツインを用いた効率的な工事

 ――新設における新技術・新材料の導入効果例とその促進について(DXや無人化・自動化施工技術など安全及び効率に資する技術、BIM/CIMの活用など)

 西川 北海道開発局小樽開発建設部では、倶知安余市道路において3次元データを活用した建設現場の生産性向上を図るため、発注者と関連する複数の受注者とデータを共有する取組みを行っています。

 施工進捗管理を共有する「SMART CONSTRUCTION Dashboard」というシステムを活用し、余市付近の複数ある土工工事の設計データと施工状況のデータを比較し、3次元空間上で可視化しました。データはクラウド上に保存しており、ブラウザ上で表示、編集が可能となっており、工事進捗状況の共有や把握、今後の進捗見通しが容易になっています。

 この現場では、複数の土工工事間で調整が必要となる掘削度量と盛土量の進捗状況が一目でわかるようになり、施工計画を容易に立てることが可能になりました。また、土工工事の完了後、後工程の路盤工や舗装工への引き渡し時期検討を従来より早い段階からスムーズに行うことが可能となったため、これも事業の効率化につながっています。

 東海環状自動車道では大安2高架橋4鋼上部工事でデジタルツインを用いた効率的な工事を行いました。

 国道365号線上の夜間架設において、点群データに時間軸を加えたデジタルツイン空間を再現し、監督・検査に活用するものです。作業動線を連続的にシミュレーションでき、施工時の課題を関係者間で共有し、合意形成を行うことで、監督業務の効率化につなげることができました。

 情報共有システムとしては「KOLC+」を用いています。現地の点群データ、時間軸を加えた4次元モデル、現場カメラをクラウド上で統合し、デジタルツイン空間を再現することで、遠隔での巡視および進捗状況の確認が可能となっています。

「橋の計画と形式選定の手引き」なども参考に予備設計の発注進める

近畿地整の奈佐川橋や九州地整の小廻橋で実際に活用

 ――土木学会で2023年5月に発刊した「橋の計画と形式選定の手引」の活用について。新設橋の予備設計や道路計画段階時点で様々な形式選定や、リスク管理、新技術の導入などを検討し、しかもプロセスの過程を残しておくことで、後工程に資する橋梁計画や予備設計となることを目指したものです。予備設計段階では、地質や住民との合意形成など不確定要素があり、かつ同時点での新技術についても有望ながら信頼性の点で断念することもありました。しかし、予備設計段階から実際の工事に入るまでは通常でも3~5年程度かかり、その間で所与の条件やより詳細な情報、新技術の信頼性も向上することから、議論の過程を残し、予備設計の最適案も無理に1つにしないことで、後工程の選択の幅を広げるようにしたことが最大のメリットです。同取り組みには国総研の玉越委員など、国土交通省に属している方も策定に参加されています。こうした取り組みの活用についても今後行っていくか教えてください。

 西川 「橋の計画と形式選定の手引き」は、日本の国土が持つ特有のリスクがあるなかで橋梁の形式などをどう計画していくべきかを考える上で、国土技術政策総合研究所が実施した『道路橋の設計における諸課題にかかわる調査』を補完する形で策定されたものであり、これらも参考に予備設計の発注を各整備局で進めています。

 近畿地整の豊岡道路Ⅱ期事業では、奈佐川橋(橋長908m)の予備設計において、斜面崩壊の恐れがある箇所に橋台位置がないかなどの災害リスクや、県道上の建設が確実にできるかなどの施工リスクなどを評価して橋長や下部工位置、橋梁形式を決めていますし、九州地整の国道220号亀割山防災事業では、小廻橋(橋長430m)の予備設計において、リスク評価に降雨時の斜面崩壊のシミュレーション解析を行って、土砂災害の危険地帯を回避したルートを決めています。

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