Interview

静岡県 南北交通と伊豆半島の道路整備が課題

2025.02.12

東西交通は充実 沿岸部は塩害の進行により架替えるPC橋も

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>森本 哲生氏

静岡県
交通基盤部長

森本 哲生

 静岡県は古来から関東とそれより西をつなぐ交通の要衝である。富士川や大井川等何本もの大河が交通を阻害し、古くは渡し場が発達、明治以降は架橋技術の発達により、鉄道や道路、新幹線、高速道路が次々につくられ、いつしか物流の大動脈を形成した。自動車産業など工業が発達している遠江、県都静岡を中心とし、日本最大の観光資源である富士山を有する駿河、そして観光資源や漁業資源が豊かな伊豆という三つの性格の異なる地域をつなぐべく伊豆においては縦貫道路の建設、静岡~浜松間ではバイパス事業が進んでいる一方、三遠南信自動車道や中部横断自動車道など東西に比して脆弱な南北交通の強化も進められている。維持管理の分野も含めて、森本哲生交通基盤部長に聞いた(本記事は、2024年9月実施のインタビュー後、26年1月に担当部署に紹介したうえで一部情報を更新し作成しています)。(井手迫瑞樹)

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三遠南信道は青崩峠付近区間が来年度開通

三遠南信道は青崩峠付近区間が来年度開通

伊豆半島 背骨となる縦貫道路に加え「肋骨」道路も整備

 ――県内の地勢的特徴と道路網の現状(各地の道路建設の要請と必要性を具体的に)

 森本部長 静岡県の特徴としては、東西に広い県域であることが挙げられます。そのため、東西交通という面では、古くからの東海道(国道1号)、さらには東海道本線、東海道新幹線、東名高速道路、さらには新東名高速道路が整備されています。2020年12月には新東名高速道路が全線6車線化され、御殿場JCT付近~浜松いなさJCT付近では最高時速120kmで走行できるようになり、利便性が向上しています。


静岡県を含めた(東京から大阪間の)東西軸の状況(静岡県HP資料より抜粋)


 一方で、山間部や伊豆半島などにおいては南北交通の利便性を向上させる必要があり、国により三遠南信自動車道や伊豆縦貫自動車の整備が進められております。

 ――昨年元旦の能登半島地震の記憶は新しいところです。半島部の孤立というのは非常に怖いものがあります

 森本 伊豆半島では、背骨となる伊豆縦貫自動車道の整備とともに、東西の沿岸部に続く肋骨道路となる道路の整備も進めています。昨年元旦の能登半島地震が、地域に甚大な被害を与えたこともあり、伊豆半島の各自治体の首長さんも非常に危機感を持っています。産業だけではなく、防災上も極めて重要な道路として、伊豆縦貫自動車道の一刻も早い全線開通を国に要望しております。

 ――他の重要路線は

 森本 伊豆湘南道路(静岡県伊豆地域と神奈川県西部地域を結ぶ構想道路)や、浜松湖西豊橋道路(東名高速道路 三ヶ日JCT(静岡県浜松市)と三河港(愛知県豊橋市)を結ぶ道路)も重要です。


伊豆湘南道路(左、静岡県HP掲載資料より抜粋)と浜松湖西豊橋道路(右、国土交通省資料より抜粋)の概要図


 ――両道路の進捗は

 森本 伊豆湘南道路は未だ構想段階です。浜松湖西豊橋道路は環境影響評価や都市計画の手続きを進めているところです。

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港湾・空港 海外からのクルーズ船需要を満たすべく清水港を整備

富士山静岡空港と御前崎港、東名・新東名を結ぶ道路を整備

 ――港湾・空港については

 森本 まず清水港について申しますと、インバウンドの増加に伴い、海外からのクルーズ船の寄港が著しく増加しています。昨年(2024年)寄港したクルーズ船の数は90隻を超えました。やはり富士山という観光資源があることが、増加の理由となっています。増加するクルーズ船の着岸地を増やすために、既存のフェリー乗り場の位置を変更するなど、街づくりと一体となって整備していければと考えております。また、清水港と土肥港を結ぶ海路は、県道223号(ふじさん)として道路認定しております。

 また、富士山静岡空港は、島田市と牧之原市の境に位置しております。現在、県で進める地域高規格道路「金谷御前崎連絡道路」の整備により、御前崎港や東名・新東名などと連絡し、陸・海・空の交通拠点の連携をさらに強化します。


金谷御前崎連絡道路全体概要(静岡県提供資料より抜粋)

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海岸線の延長は506km 静岡方式の津波対策を行う

 ――海岸線も東西に長く太平洋に面しており長大です

 森本 その距離は506kmに及びます。南海トラフでは約30万人の被害が想定されており、約10万人の死者の恐れがあり、津波対策を進めています。西は遠州灘、中は静岡湾、東は伊豆半島と同じ県でも海岸線の地形は大きく異なっています。遠州灘は比較的なだらかな海岸線となっており、ここは防風林などをうまく利用して、レベル2地震の際に想定される津波にも耐えられる海岸を市町と一緒に整備をしています。具体的には防風林の所に防潮堤を設置しています。

 中部から伊豆に向けてはリアス式海岸が多くなっています。そうした箇所は観光も盛んな地域であり、漁港としても活用されています。こうした箇所は防潮堤などを造ると漁業活動を阻害してしまったり、観光産業に悪影響を与えてしまったりします。そこで中部および東部では、地区にあった避難タワーもしくは避難路などを構築し、「静岡方式の津波対策」を行っています。

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能登半島地震を受けて一層必要性が増した伊豆縦貫自動車道の早期整備

海岸部の道路強靭化 防災拠点としての道の駅整備も必要

 ――地震や津波も大きく警戒すべき県土ですが、2021年7月には豪雨水害で、社会インフラも大きく被害を生じました。黄瀬川では黄瀬川大橋の一部が沈下し、熱海では大規模な斜面崩壊が生じました。さらに能登半島の地震および水害は同様の伊豆半島を抱えている静岡県としては非常に危機感を覚える事象であると思います。静岡県としてどのように考えているか教えて下さい

 森本 まずは、伊豆縦貫自動車道の整備を進めていくことが大切です。同道路は、静岡県沼津市を起点とし下田市に至る延長約60kmの一般国道の自動車専用道路であり、伊豆半島の「背骨」となる道路です。県では、伊豆縦貫道路から東西の沿岸部への「肋骨道路」も整備しております。その一つとして、県道河津下田線は、伊豆縦貫自動車道の(仮称)下田北ICから伊豆半島の東海岸とをつなぐ路線ですが、本年度、国の補助事業に採択され集中的に整備を進めております。また、国道135号、136号などの幹線道路では、落石対策を中心とした防災対策も着実に進め、強靱な道路ネットワークを整備あるいは維持管理していかなくてはなりません。


伊豆半島道路網整備計画(静岡県公開資料より抜粋)

伊豆縦貫道ならではのたのしい光景も見ることができる(井手迫瑞樹撮影、車の運転手は別にいます)


 加えて、道の駅も重要です。観光拠点としても重要ですが、防災や被災後の復旧活動の拠点としても適切に機能するよう関係市町とも連携して取り組む必要があります。

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災害時 「トイレ」はもちろん避難所の環境改善に努める

黄瀬川大橋 架替え実施中

 ――能登半島地震では盛土構造の損壊も多くの箇所で生じました

 森本 国土交通省からの通知もあり、道路盛土の安定性については調査を行っています。その調査が終わり次第、必要な箇所についてはきちんと対策を行っていきます。

 ――能登半島地震の際、最も必要なものとしては「トイレ」がありました。トイレの充実が無ければ、尊厳も含め、市民の方々は非常な苦労をしなくてはなりません。静岡県はどのように準備をおこなっていますか

 森本 発電機なども充実させており、電気や燃料については災害が起きても対応できるよう準備を進めています。道の駅でもトイレの充実については考慮しています。静岡県では能登半島地震への支援ということで、穴水町にトイレカーを市町から派遣してもらいました。トイレカーだけでなく多目的カーとして、シャワー設備を有した車を持っている市町(藤枝市)もあり、そうした設備を有する車両はかなりの効果を発揮しました。

 静岡県で災害が生じた際も東で生じた場合は西、西で生じた場合は東のそうした設備をいち早く提供することができると思います。

 今、津波対策のアクションプログラムを策定し、2023年から10年間でどのように南海トラフなどの巨大地震に対応すべきかというプログラムを策定しています。重要なのが避難してもその先で病気などになってしまうと、それが二次災害になってしまうので、避難先の環境改善をやっていこうということで、県から交付金を市町に出して、避難した後の環境改善も行っています。


静岡県 津波対策のアクションプログラム


 2021年7月3日に生じた豪雨では、県道富士清水線で黄瀬川が増水により、黄瀬川大橋の一部が沈下し、全面通行止めとなりました。同橋を含む富士清水線は交通量が多く、その影響は非常に大きいものがあります。そのため応急組み立て橋で2か月後の8月31日は大型車などを除きますが通行止めを解除しました。


損傷した黄瀬川大橋も仮橋供用中である(静岡県写真提供)


 さらにしっかりとした仮橋を2023年10月16日に供用し、大型車も通行できるようになりました。現在、県が架け替え工事を進めるとともに、河川管理者である沼津河川国道事務所が河川改修を進めています。

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熱海の土石流災害 補助制度用いてスピーディーに不安定盛土を除去

 ――熱海市で生じた土石流も地域交通に大きな影響を与えました

 森本 熱海の国道135号沿いでは土石流による道路や民家への被害が生じ、これらの復旧作業とともに、土石流の発生原因の究明を行いました。現在は、道路交通上の問題はありませんが、当時は崩壊地付近には不安定な盛土が残っていたので、これについては県による行政代執行で撤去しました。国の補助制度を用いさせていただくことで、かなりスピーディーな代執行を行うことができました。併せて、上流部では国の直轄砂防事業により令和5年3月に砂防堰堤が完成し、警戒区域も解除され安全度が向上しています。

 またこの南側に河川があったのですが、それが大きな被害を受けたので、その河川復旧の必要もあります。幅も広げなくてはいけませんし、河床掘削による断面確保も必要になります。二級河川ですので、県が河川改修を行いながら、熱海市の道路整備と一体的に進めています。

 ――熱海市で生じた土石流は、東海道新幹線の橋桁の下にまで到達していました。まかり間違えば、東海道新幹線にも被害が生じた可能性がありました。その状況を踏まえた河川改修が必要と考えますが、いかがでしょうか

 森本 そうですね。元々、河川の幅が狭いところであったので、東海道新幹線や東海道線を跨ぐ部分については、どちらもボックスカルバートで暗渠にして上が道路になる形で計画しています。近接施工でありますのでJR東海やJJR東日本と協議をしながら施工する必要があります。


熱海の土石流の状況


 また、河川幅と道路幅が広がるため、被災した方から用地を買収する必要がありますが、用地交渉には時間を要しています。

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災害対策 ソフトウェア的な対策が重要

『SIPOS-RADER』という独自のシステム及び情報サイトを構築

 ――2022年9月にも水害が起きましたが、北部の山中、河川の上流部では河川および橋梁や道路に大きな損壊が生じていました。国道473号や大井川鉄道にも大きな被災を生じせしめ、浜松市では比較的市街地の橋梁でも橋脚の損傷、桁の流失が生じていました(静岡市清水区の清水橋や浜松市浜北区の二俣川渡河部にある嘯月橋など)。いずれも河川の上中流に位置し、河積阻害率が高い古い橋ですが、河川の浚渫もそれほどやっているのか疑問でした。先手を打って橋の架替えを積極的に進める、橋のトリアージを行い、撤去と頑丈な橋への架替えを進めていくということはありませんか

 森本 雨の降り方が激しくなってきていることで、土砂災害の発生件数が増加傾向であることは認識しており、砂防事業などで対応しているところです。

 また、河積阻害率の高い橋梁の橋脚が課題であることは確かですが、河川改修は下流側からやらなくてはなりません。静岡市の巴川流域は、1974年7月7~8日にかけて起きた50年前の七夕豪雨で大きな被害が生じた地域ですが、河川拡幅や河床掘削による流下断面の増加等により被害の軽減が図られました。ここで課題なのは橋が架かっている箇所は、それを一時的にも撤去しないと拡幅および掘削ができないということです。

 河川改修とセットで行う必要があるため、管理者間の協議や住民への説明も含め、時間がかかることは否めません。

 トリアージに関して、県が管理している橋梁は基本的に広域的に使う道路ですので、撤去の対象とはなりません。ただ、市町が管理している橋梁は、利用状況や効率的なメンテナンスも念頭に入れて、協議する必要があるとは思っています。
ただ、全てをハードウェア対策で賄うのはやはり無理があります。

 ――ソフトウェア的な対策も重要です

 森本 水害や津波対策でいえば、冠水しそうな道路においては水位がある程度の高さに到着した時にはアラートが出るようなシステムも導入しています。また、例えば河川の情報を知らせるシステムとしては『SIPOS-RADER』という独自のシステム及び情報サイトを構築しており、危険な時には、その近くに住む住民にきちんと情報を伝えて、迅速に逃げてもらえるようにすることが重要です。また、長期的にはハザードマップの提示により、少しでも安全な場所に住んでいただけるよう誘導していくことが大事であると考えています。


SIPOS-RADER(静岡県運用)

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