Interview

国交省近畿地整 大阪湾岸道路西伸部、淀川左岸線延伸部、近畿自動車道紀勢線、京奈和自動車道などビッグプロジェクトの進捗を聞く

2024.06.28

保全分野の対策やDXの活用も進む

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DX 国土交通省
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>水野 宏治氏

国土交通省近畿地方整備局
道路部長

水野 宏治

概要動画Overview Video

 国土交通省近畿地方整備局は、大阪湾岸道路西伸部、淀川左岸線延伸部、近畿自動車道紀勢線、京奈和自動車道など多くのビッグプロジェクトを抱えている。その事業詳細や、構造物の特徴、新技術の活用事例、また耐震補強や補修の進捗、DGMX(DX、GX、MX)、BIM/CIMなどの活用について、その詳細を水野宏治道路部長に聞いた。(井手迫瑞樹)(2024年5月27日取材)


(資料提供:国土交通省近畿地方整備局、以下同)

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南海トラフ地震で紀伊半島に被害が生じたときにどうするのか

斜面にアンカーの設置による斜面安定対策

擁壁の嵩上げによる浸水対策により災害を防いだ箇所も

 ――大規模な風水害や地震などが全国各地で生じています。管内でも平成30年の大阪北部地震、台風21号による関空連絡橋の桁損傷、水害などにより大きな被災が生じたことは記憶にあたらしいところです。そうした洪水や斜面崩壊に対して橋や道路が損傷しないため、施している構造上および工事上の工夫について教えてください。

 水野部長 大規模な風水害などによる、洪水や斜面崩壊に対する道路の対策は、斜面にアンカーの設置による斜面安定対策や、堰堤などの設置による土砂の流入対策、擁壁の嵩上げによる浸水対策、護岸擁壁の洗掘対策などを実施しています。

 例えば国道9号の京都府福知山市夜久野町付近では、平成30年7月の豪雨で連続雨量329mm、最大時間雨量約43mm/hの大雨により、のり面崩落とともに土砂が国道9号に流入し、約15時間の全面通行止めを余儀なくされました。そのため令和4年度に土砂流入対策として堰堤を設置した結果、令和5年8月の台風7号では連続雨量225mm、最大時間雨量38mm/hの大雨となりましたが、対策が奏功して土砂の流入は生じませんでした。


災害対策実施例


 また、国道25号の奈良県北葛城郡王寺町藤井~元町付近は、平成29年に10月の大雨で大和側の水位が上昇して冠水し、道路が一時的に通行不能になりました。これを改善すべく擁壁を設置した結果、令和5年6月に現地を襲った台風2号の際、大和川の水位が路面高を越えるまでに上昇したものの、浸水は生じませんでした。

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南海トラフ地震で紀伊半島に被害が生じたときにどうするのか

福井県内では国道8号、北陸自動車道が同時に通行止めになったことも

 ――正月に起きた能登半島の地震は激甚災害の恐怖をまざまざと見せつけました

 水野 あれを近畿に当てはめた場合に、やはり一番考えなければいけないのは、南海トラフ地震で紀伊半島に被害が生じたときにどうするのか、ということです。

 能登半島は道路網が脆弱だと言われていますが、能登半島はまだ沿岸と内陸からの2つのルートが存在していました。しかし紀伊半島は、これだけ大きな半島なのに内陸から沿岸に向かう道路はあるものの非常に脆弱で、沿岸部も現道の国道42号は、基本的に海のすぐそばを通っており、津波が来たら不通になる可能性が高くなります。

 そのために整備しているのが近畿自動車道路紀勢線ですが、整備途上であり、紀伊半島を襲う南海トラフ地震が今後30年で7~8割の確率で発生すると言われている中で、発災時に紀伊半島でどういうオペレーションをとっていくのか、ということをしっかり考える必要があります。当然、道路啓開計画などは策定済みですが、やはりネットワークがまだ整備されていない現状は厳しいものがあります。今後段階的に完成していきますが、開通に合わせて、被災地に入るルートを更新していかねばなりません。そして、言うまでもなく、現在事業中の箇所を1日も早く仕上げることが重要です。

 私が道路部長に着任直後、国道8号の福井県内で一昨年の8月に、土砂崩れが生じました。この事象は、北陸道が土砂崩れにより通行止めとなり、国道8号に交通が集中しました。その数時間後に、国道8号でも至る所で土砂崩れが生じ、トンネルの中で、車両の滞留が長時間起きたという災害がありました。福井県の中では南北を繋ぐ道路は国道8号と北陸自動車道しかなく、この2つの道路が途切れると、県内の南北どころか、近畿と北陸全体との行き来ができない状況になります。国道8号は1桁国道ですが、山間部の斜面に沿った線形となっており災害に弱く、しかも片側1車線しかありません。そういった道路をしっかりと改善しなくてはならないと考え、今年度、大谷防災事業を新規事業化し、被災箇所をトンネル構造でのバイパス計画とすることにしました。


土砂崩れや線形不良個所における交通事故などによる不通や車両の滞留を防ぐために
国道8号大谷防災事業を新規事業化

大谷防災事業の検討と新規事業化

特に道路網が脆弱な地域は和歌山と福井

ハード、ソフト両面から対策が必要

 ――狭い場所を高速道路と国道が走っており、災害では両方とも不通になるとまさに陸の孤島化してしまいます

 水野 近畿管内で特に道路網が脆弱な地域は和歌山と福井です。降雨時も一番心配するのは和歌山と福井です。福井は降雪などを考慮すると、安心できるのは春しかないと私は考えています。そうした地域を守るためにも道路網をしっかり整備して改善していくことが大事です。

 一方でソフト的な対策も重要です。災害が起きた際の交通マネジメントはとりわけ重要です。福井で実施したのは緊急輸送バスを用いて地域の方の移動手段の確保や、通行止め箇所からの迂回誘導、片側交互通行規制箇所の渋滞車両のコントロールなどが該当します。
昨年、山陽道の尼子山トンネルの火災事故がありましたが、その際も国道2号に遷移する交通のマネジメントに腐心しました。こうした災害対応のノウハウは全国的に蓄積されてきていますので、災害が起きた際の事前シミュレーションの精度向上にしっかりと反映していきたいと考えています。

 ――内陸部から沿岸部に向かうルートも重要だと思います。

 水野 奈良県と和歌山県が管理する国道168号、国道169号が該当しますが、非常に脆弱で昨年12月に国道169号で土砂崩れが起こり、現在も通行止めが続いているなど、至る所で土砂崩れ等が発生している路線です。国道169号の土砂崩れが発生した箇所については、今年3月より国の権限代行による災害復旧事業を実施しています。この2路線については、紀伊半島アンカールートとして整備を進めているところですが、整備完了までには時間を要することから、これらの道路が使えた場合、使えない場合のシミュレーションを含めた検討を、能登半島地震を踏まえ、改めて近畿地方整備局として考えていかなくてはなりません。

淀川左岸線延伸部 トンネル区間のうち豊崎付近では、淀川の堤防と一体構造で建設

道路トンネルは東行きと西行きで1本ずつ建設

 ――次いで淀川左岸線延伸部は

 水野 (仮称)豊崎IC~門真JCT間(8.7㎞)を事業区間とする自動車専用道路で、西日本高速道路および阪神高速道路と共同で事業を行っています。東側の門真JCT~鶴見緑地付近は高架構造、その西側はトンネル構造です。

 トンネル区間のうち豊崎付近では、淀川の堤防と一体構造で建設することから、堤防との一体構造物の安全性等について学識者から意見をいただいております。また、トンネル区間の殆どが大深度地下をシールドトンネルで掘進していく構造です。東京外環道での課題を踏まえ、ボーリング調査も改めて行っています。

 主なトンネル設計検討の内容は、大深度地下区間でのシールドトンネル設計手法、シールドトンネルの併設影響、堤防と道路構造物を一体とした場合の安全性の照査方法などです。

 シールドトンネルの外径は約13mで計画しています。

 ――シールドトンネルは何本掘るのですか

 水野 道路トンネルは東行きと西行きで1本ずつ建設します。さらにその横には大阪府が地下河川のシールドトンネルも建設するので、場所によっては3本のシールドトンネルが併設する区間が出てきます。併設は横に並ぶ区間もあれば縦に並ぶ区間もあります。

 こうした複雑な構造、線形であるため、調査ボーリングは通常よりもかなり多くの本数を実施しており、その上で、先日も委員会を開催し、再度地質について確認をしております。

大阪湾岸道路西伸部 六甲アイランド北~駒栄間14.5kmで整備が進む

大野油坂道路(和泉・油坂区間) 橋梁下部工、トンネル工事が進捗

 ――大阪湾岸道路西伸部は

 水野 大阪湾沿岸地域の既存幹線道路の交通負荷を軽減し、都市環境の改善を図るとともに、大阪湾沿岸諸都市を有機的に連絡して、都市の活力を向上させることを目的に、阪神高速道路および港湾事業と共同で事業を行っています。都市計画決定されている区間は六甲アイランド北~名谷JCT間20.9kmですが、現在は六甲アイランド北~駒栄間14.5kmの整備を進めています。主に陸上部(道路事業)、海上部の基礎(港湾事業)が国土交通省、主に海上部の主塔部および上部工を阪神高速道路がそれぞれ担っています。

 構造物は全線高架構造となっています。現在は六甲アイランド地区で下部工を全面展開しています。同地区は埋立地のため基礎地盤が深く、鋼管ソイルセメント杭を採用しています。海上部の新港・灘浜航路部については鋼斜張橋形式を選定しており、現在ECI方式により阪神高速道路において手続きを実施しています。



大阪湾岸道路西伸部では橋梁基礎に鋼管ソイルセメント杭を多く採用した


 

 ――一般国道158号 中部縦貫自動車道 大野油坂道路(和泉・油坂区間)は

 水野 福井県大野市貝皿~東市布(九頭竜IC~油坂出入口)間15.5kmについて工事を進めています。構造物比率は土工が約20%(3.1km)、橋梁部が約14%(2.2km)、トンネルが約66%(10.2km)です。現在は令和8年春開通に向けて橋梁下部工、トンネル工事が進捗しています。令和4年8月の豪雨災害では、北陸道・国道8号など日本海側の全てのルートが被災し、通行止めとなりました。その際に中部縦貫自動車道の開通済み区間が広域迂回路として機能を発揮しました。


中部縦貫道大野油坂道路(和泉・油坂区間)事業概要

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